100年企業の働き方をスマートに改革。副業兼業人材との連携が、社員の挑戦と成長のきっかけにも。
2024年03月06日(水)
紙小津産業株式会社のプロジェクトは、副業兼業人材とともにDXを推し進め、社内の働き方を改革するものでした。新しいツールやシステムを活用し、業務の自動化、効率化を目指す企業は少なくありません。しかし、社内にITに詳しい人がいないからと足踏みをしてしまうのもよくある話です。では、社外の力をどのように借りれば、新しい仕組みをスムーズに形づくっていけるのか。紙小津産業のチャレンジには、これから改善に取り組もうとする企業へのヒントがいくつもあります。そのプロセスと成果を覗いてみてください。紙小津産業代表の小津さん、プロジェクトの中心メンバーである三谷さん、中尾さんにお話を聞きました。
■企業名:紙小津産業株式会社
■業種:商社(包装資材など)
■事業の種類:toB
■企業規模:92名
■他社へのおすすめ度合い(10点中★点)
・外部人材活用全体に対して…★★★★★★★★★☆
・事業開発に関して…★★★★★★★★★☆
・組織開発に関して…★★★★★★★★☆☆
■外部人材の受け入れ経験:無し
■受入れフェーズ:試行錯誤する内部人材が既にいる
■企業の抱えている課題:顧客数2千超、仕入先数3百超、アイテム数1万超を扱っており、業歴も百年超のため、昔ながらの業務プロセスや情報の管理の仕方が定着していること
■外部人材の受け入れ期間:2023年11月~2024年2月
■受け入れ人数:2名
■企業HP:https://www.kamioz.com
昔ながらの業務の“ダイエット”がしたい
1921年に創業し、100年を超える歴史を刻む紙小津産業。三重県松阪市を拠点に、スーパーマーケットの包装資材の卸売など、紙製品に関わる事業を営んできました。取り扱いアイテムは10,000点以上。業界を選ばず製品を提供できる、幅広い品揃えを強みの一つとしています。2023年に東海印刷株式会社から印刷事業を譲り受けて事業内容を拡大。さまざまな業界のお客様のニーズを引き出し、柔軟にお応えできる提案力と技術力で、さらなる成長のビジョンを描いています。
長く卸売を主軸としてきた事業に印刷業を加えるにあたり、社内の業務を大きく見直す機運も高まりました。手書きの書類などアナログなやり方が多い現場を改め、無駄は積極的に省いていきたいと考え、RPAなど業務改善ツールの導入、デジタルデータの活用などによる、働き方の“ダイエット”に挑戦している真っ最中です。そして、今回のプロジェクトも、このダイエットの動きを加速させるために活用しました。
中尾さん「社内だけで検討していると、気付けないことやお互いに指摘しづらい点もあります。社外の方の客観的な意見を取り入れることで、不要な業務や改善が必要なポイントをより議論しやすくなると考えました。他方で、『副業兼業の方が言ったから』と社員が受け身になるようにはしたくなかったです。当社では、既に業務の最適化を念頭に、IT研修を受講した人もいます。彼らをプロジェクトの中心に据え、あくまでも社員主体で進める。そこに専門的な力をお借りできる形を想定していました。」
こうした構想のもと募集を開始。15名ほどの応募があり、書類審査と面談を経て3名を採用しました。いずれもIT系のエンジニアとして確かな実績があり、知識と技術に長けた人です。このうち2名は副業兼業の経験もありました。ただし、選考においては、能力よりも人格面での自社とのマッチングを重視したといいます。
小津さん「私たちがどんな会社で、どこを目指しているかをしっかりとお伝えしました。まず当社の考え方に共感してもらえないと、細かい話を進めていったところでズレが生じてしまいます。採用面接ではないので、お互いに本音を交わしました。」
わずか3ヶ月で業務改善を実現
2023年11月後半からプロジェクトがスタート。最初の数回は、ゴールのイメージを丁寧にすり合わせました。これが一番大切なプロセスだったと口を揃えます。
中尾さん「社外の人と連携する上で、お互いの求めているものにすれ違いがあってはうまくいきません。こちらの望みを伝え、副業兼業の方々のやりたいこと、できることを聞く。さらに、プロジェクトを通して社内をどんな状態にしたいかもしっかりと確認しました。多少時間はかかっても、このステップが肝心だと思います。」
ゴールを設定した後、副業兼業人材と社員3、4名でチームを組み、それぞれが異なる課題に取り組む体制を作りました。やり取りは基本的にオンラインで行われ、12月に会社見学と歓迎会を設けました。現場の働き方への理解を深めるとともに、メンバー同士の距離を縮める機会にもなりました。業務の“ダイエット”を謳いつつ、歓迎会では松阪のおいしいものを味わって大いに盛り上がったと楽しそうに語ります。
今回ピックアップされた課題は大きく二つ。営業部門の受発注業務と管理部門の経費処理などの業務です。各チームが、業務の最適化に向けて、改善点を洗い出し、自社に合うアプリケーションを開発しました。受発注業務については、営業職が手書きで商品名やコードを書き、後からパソコンに打ち込んでいた流れを、商談時に直接入力できるようにすることで、3分程度かかっていた業務が30秒にまで短縮できると見込まれています。一方の管理部門の業務については、まず手書きの経費精算に代わるアプリを作成。この他、社内での情報や報告事項の共有も、紙からアプリへ移行しようとしています。加えて、管理部門のアプリ作成ソフトは、ITの専門スキルがない人でも扱いやすいものが選ばれました。今後、社内でアプリの開発や改良ができる人材の育成も視野に入れています。営業部門も管理部門も、約2ヶ月で試しに使用できるレベルにまで達しました。社内のテストで改善意見を募り、プラッシュアップがされています。
三谷さん「これほどの成果が生まれ、正直驚いています。私たちの希望に沿ったソフトを紹介し、プロジェクトの期間だけでなく、これから先も見越した提案をしていただけているのが嬉しいです。社内でできることの可能性も広がりました。専門業者に委託するのとはまた異なる、副業兼業の方と連携できたからこその効果も感じています。」
社内に広がり始めたアプリ開発の波
新しいアプリが出来上がるだけでなく、社員たちにもさまざまな影響がありました。
小津さん「入社1年目の営業職の社員が、このプロジェクトで業務改善にチャレンジしています。彼女は、もともと業務用のアプリ開発に興味があり、IT研修にも積極的に参加していました。当社は“挑戦と成長”を理念に掲げており、まさにその思いを体現してくれています。」
この話にあった1年目のメンバーは、プロジェクトでの経験を「とても楽しい!」と語り、今後のアプリ開発にも関わっていきたいと立候補しています。さらに、そんな仲間の姿を見たからか、社内で「自分もアプリをつくってみたい」という声が、プロジェクトメンバー以外からも聞こえてくるようになりました。より良い環境を自分たちで整えていこうという気持ちが、社内に波及しているとうかがえます。「あくまでも社員主体で進める」という思惑が、良い結果につながっているのかもしれません。
副業兼業人材も、社員も、うまく巻き込むために
紙小津産業にとって初めての副業兼業人材とのプロジェクト。受け入れ企業として大事にすべきことを問うと、小津さんから2つのポイントが挙げられました。
小津さん「1つ目は、プロジェクトの進行を管理する人間が、ある程度の完成形のイメージをあらかじめ持っていること。私たちが「アプリってなに?」という状態でスタートしてはダメ。たとえ専門性はないとしても、準備をきちんとしておくべきです。
その上で、2つ目として管理職が動きすぎないようにすること。メンバーとなる社員の関わる余地を大きく残しておいて、「自分たちのプロジェクトなんだ」と思ってもらえるような工夫をすることで、メンバーそれぞれの挑戦の後押しをすることが大切です。」
社外の人材の協力を得ながら、社内の人材もうまく巻き込み、個人と組織の成長のチャンスが生まれました。紙小津産業では、引き続き副業兼業のメンバーからノウハウを学び、社内でのアプリ開発を進めていくといいます。社員の成長にともない、そのスピードはどんどん加速していくのではないでしょうか。
■人材の条件
・関わり方:副業/兼業
・頻度:週1回のミーティング(プロジェクト中間時点で現地で顔合わせを実施、それ以外はオンライン)
■必須条件や歓迎条件
<スキル面>
・課題発見/抽出を得意とする方 (表面的な小手先の効率化ではなく、業務の本質をとらえ、「残すべきもの」「残す必要がないもの」を見極められる方)
・デジタルデータ化およびその活用をしたことがある方
・弊社使用のツールを活用した経験・ノウハウをお持ちの方
※RPA(WinActor)、AppSheet、NIコラボ、Microsoft365 等々
<マインド面>
・異なる背景を持つ方とも、丁寧にコミュニケーションできる方
・松阪の特産物を食べたい方(松阪牛、松阪豚、とり焼き、魚介類)
■副業者の経
<1人目>
新卒はSIerにてプログラマーとして8年ほど従事。Webアプリの開発から、トレンド技術の活用を推進するチームの立ち上げまで幅広く担当。雑誌への寄稿や登壇など情報発信にも広く取り組む。2021年にインターネット関連事業会社に転職。自社プロダクトのAPIサービスにおける事業企画に従事。現在は、API活用のコンサルティングや、パートナーアライアンスの推進、パートナープログラムの運用などを担当。
<2人目>
システム開発で5年間、生産管理基幹システム構築のプログラマー・SEとして勤務。その後は、自動車部品製造業にて13年間、物流・加工・生産管理・IT企画業務に幅広く従事し、2022年に個人事業主として独立。現在は、製造業を中心に、デジタル化支援に取り組む。
■コーディネーターの役割
外部人材の活用という選択肢の提案とプロジェクト設計の際の壁打ち。選考過程では一次対応をすべて行い、最終の絞り込みに対しても、過去の事例に基づき助言。現地ミーティングの同行や、必要に応じた定例オンラインミーティングへの参加。その他フォローイベントのファシリテートや連絡調整などの事務的な取次を行なった。
■結果
まず、Microsoft Power Appsを用いた受注伝票のデジタル化に取り組み、作業の効率化で年間63時間の時間削減に成功。入力ミス低減等の副次的成果も見られる。さらに、モバイルアプリ作成ツールを用いた受注取りのデジタル化に取り組み、完成すれば現場から即情報提供可能になり、電話時間の削減や伝達ミス削減の副次的成果も期待できる。
今後は、アプリ開発を通じ改善の意識を高めると共に、簡単なものから進めて作成する喜びをもたせ、社内にアプリ開発が出来る人材を育てていきたい。社内全体への水平展開やこの活動がどんどん増殖していくことを期待している。
※「令和5年度中部経済産業局における地域中小企業・小規模事業者の人材確保支援等事業(副業・兼業等外部人材確保事業)」によりプロジェクト支援を実施
最新記事
カテゴリーを選ぶ
過去記事
-
2024年
-
2023年
-
2022年
-
2021年
-
2020年
-
2019年
-
2018年