3ヶ月限定のパラレルワーク!富士ゼロックスに学ぶ、兼業・副業時代に向けた企業側の役割とは(前半)
2019年03月18日(月)
兼業元年ともいわれた2018年、都内に本社を持つ大手企業を中心に、社員の兼業・副業を認める動きが加速しました。一方、パラレルキャリアの実践において、「どの企業で何をするか」「実際に本業との掛け持ちが可能か」「情報漏洩などの対策についてはどうするのか」など、個人も企業側も様々な不安要素があり、なかなか一歩を踏み出せない現状があります。
そんな中、今回お話を伺ったのは、複合機やソリューション、サービスを中心に事業を全国に展開する富士ゼロックス株式会社。2018年に同社は、社内で取り組んでいた次世代のリーダー育成研修の参加者に対して、地域企業が取り組む経営革新プロジェクトに期間限定(3ヶ月間)で参画する「シェアプロ」を導入しました。
同社がパラレルキャリアを研修に取り込んだ目的やその成果について、仕掛け人である富士ゼロックス株式会社の三木祐史さん、安田勇大さんにお話を伺いました。
「ふるさと兼業」を主催するNPO法人G-netが提供しているサービス。地域企業が取り組む経営革新プロジェクトに、期間限定(3ヶ月間)で外部社会人として参画する「パラレルキャリア」実践プログラムです。自分のスキルをもっと多様に活かしたい方、地域社会に貢献したい方、兼業・副業を見据えた動きを始めたい方が、意図を持って地域でキャリアを積める機会、多様な働き方の試験運用の機会となることを目指しています。
富士ゼロックス株式会社が「シェアプロ」に参画した際の受入先企業
・船橋株式会社(愛知/地場産業・ソーシャルビジネス)
・株式会社モールデック(岐阜/ものづくりベンチャー)
・山眞産業株式会社(愛知/食・地場産業)
・飛騨五木グループ(岐阜・愛知/林業ベンチャー・地域商社)
・藤塗装工業株式会社(愛知/ものづくり・地場産業)
・総合在宅医療クリニック(岐阜/ソーシャルビジネス・医療福祉)
−シェアプロは、FLCPという富士ゼロックスの研修の一部として導入されたと聞きました。このFLCPについて教えていただけますか?
安田 FLCP(Future Leaders Challenge Program)は富士ゼロックスの次世代の経営を担う変革リーダーを育てるための1年間のプログラムです。「新価値創出への挑戦」「人間力の向上」が、2つの大きな軸になっています。当社はコピー機というイメージが非常に強いと思いますが、これからは「紙の情報を複写する」という従来ビジネスから転換し、新たな価値を創造する力が求められています。
また、当社は「人」が仕事の中心にいて、「人」によって仕事が進められる、という原理原則を大切にしています。他者から見て「この人についていきたい」という人間にならなければリーダーにはなれない、という思想が富士ゼロックスには脈々と受け継がれているんです。FLCPは、そういった人材を育成する機会として用意しました。
2004年プロ市場向けプリンターの専門SEとして富士ゼロックス株式会社へ入社。2013年システムコンサル営業へ転向し事業拡大に従事する傍らで組織開発や組織コミュニケーションの変革を目指す自主的な社内外活動を展開。2017年営業生産性強化センターへ異動し次世代の経営を担うリーダー育成プログラム「Future Leaders Challenge Program」の企画運営に携わる。
−FLCPにシェアプロを導入された目的を教えてください。
安田 「価値創出への挑戦」の中のテーマとして「オープンイノベーション」に着目しています。企業の枠組みを超えた「他流試合」を通じて、新しい価値を創るということです。そのひとつの方法として、シェアプロを導入しました。
三木 シェアプロを導入したのは、自己効力感を持つこと、ビジョンある中小企業の一体感や、バリューチェーン全体を見て実際にビジネスを作っていく面白さを知ってもらうことが目的でした。大きな組織の中で働いていると、ビジネスの全体像が見えにくいということがあります。それは、バリューチェーンの中の一部分しか見ていないから。
当社の若手社員もそのことをよく分かっているので、「中小企業の経営者の方とお話するなんて」「こんな自分が世の中の役に立てるのだろうか」と自信が持てずに縮こまってしまっているんです。だからこそ、FLCPに参加したメンバーにはセルフコンフィデンス(自己効力感)を上げて欲しかった。「自分にもできる気がする」と思える内面的な成長の機会を持たせたかったんです。
FLCPでは営業職と技術職が混ざって研修をしました。実は当社の研修では初めてのチャレンジです。大きな組織では、採用の時点で技術職と営業職の人材が分かれているということはよくあります。ただ、今回の大きな目的は「新価値創出への挑戦」「人間力の向上」だったので、それで職種をわけるのは違うだろうということで一緒にしました。大変なところもありましたが、やって良かったですね。
日本生命、リクルートでの営業・マーケティング・商品企画を経て、2010年に富士ゼロックス株式会社に入社。2015年より人材開発として20代-30代を対象とした次世代リーダー育成プログラムの企画推進リーダーに着任(現在はシンガポール駐在中)。プライベートは一般社団法人マツリズムの駆け出しマツリテーターとして各所の祭りに参加し、伝統的な祭りの魅力を組織開発やリーダーシップ開発に活用するビジネス展開を模索中!
−技術職と営業職が混ざっていることで印象的だったことはありますか?
三木 プロジェクトの選び方という点では職種ごとに違った傾向がありました。例えば、技術職は「あの会社のものづくりが楽しそう」というのが動機として多いけれど、営業職は「社長のビジョンに共感した」というのが決め手になっていたり。
安田 プロジェクトの中では必ずしもメンバーが持っている専門的なノウハウだけが求められるわけではありません。例えば株式会社モールデック(岐阜)さんは、「大画面移動型スクリーンで、屋外で映画などを楽しむ新たなシーンを全国に展開する」というプロジェクトだったのですが、そもそもモールデックさんは技術者集団で、営業がいなかった。そのプロジェクトには当社の技術系のメンバーが入っていましたが、大型スクリーンの開発はモールデックさんに任せて、サービスの販売先を見つけるということをやりました。
技術系のメンバーは営業なんてやったことがないので、同じくFLCPの営業職のメンバーに「営業ってどうやるの?」と相談していましたよ。そうやって、少しずつ「何が強みで、どういうシーンで、どんな人につかってもらうんだろう」ということを、まさに当社の営業が行なっているようなことをモールデックの人たちとディスカッションしながら、コンセプトとターゲティングを決めていきました。実際に電話やメールで営業もしていましたね(笑)
自分たちがやったことのない仕事を自分たちで何をやるのか決めてリアルにやってみるという経験することができたんです。彼らはこれをきっかけに、開発もお客様の視点で語ることが必要なんじゃないかという気づきを得たようです。
−期間中、メンバーのみなさんの様子はどうでしたか。
三木 当社のメンバーは、「受入側からの期待に何としても応えたい」という想いが強かったですね。参画側の企業様も驚くほど、プロジェクトにコミットしようとするメンバーが多かったんです。あるプロジェクトでは、受入側からはじめに依頼された内容を検討するうちに、「市場にニーズがない」ということが分かって1ヶ月で破綻してしまいました。
でも、「あと2ヶ月しかないけど、何か残したい」ということになって。そこから訪問看護師向けのeラーニングを作るという目的に変わって、結局そのeラーニングサイトのプロトタイプまで作って納品しました。先方の企業からも「みなさん真摯に真面目に向かってくれた。想像以上に良くて驚いた」という感想をいただきました。
安田 メンバーは、参画した企業が実際に商品やサービスを作っていくスピード感に驚いていましたね。富士ゼロックスでやろうとすると試作品を作るだけで下手すると何ヶ月・何年もかかることもあるので。受入企業様は、決めたらすぐに「試作品つくっちゃおう」、試作品ができたら「商品にしちゃおう」、商品ができたら「納品先で売ってみてもらおう」までいっちゃいますから。メンバーが「そんなすぐやっちゃっていいんですか!」って驚くほど。
−メンバーの皆さんはきっと楽しかったでしょうね!
三木 相当楽しかったみたいですよ(笑)熱くなって夜中までメッセンジャーでのやりとりが続くときもあって。夢中になっているメンバーには、みんなで「寝ろ」って声をかけたり。大変なはずだけど、楽しそうでしたよね。
副業やパラレルキャリアを続けている人は、両方ともエネルギーがあがる。そういう意味では、シェアプロが楽しくて日常のものも楽しくなっているメンバーが多かったと思います。ケーススタディではああはならないんですよ。社外の本当のビジネスだからあれだけ盛り上がる。
安田 自分たちが考えて、決めて、活動したことが、ダイレクトに結果として戻ってきますからね。メンバーは「なんとしても成果を出すぞ」というモチベーションになっていました。
三木 最後の発表の時は本当に大盛り上がりで、受入側のみなさんもメンバーも泣いてました。ここまで全力でやってきていたから、会えなくなるのが淋しかったみたいで。でも、実際に会ったのは3回だけなんですよ(笑)あとは全てリモートワーク。
安田 3ヶ月の期間中、実際にお会いするのは初回・中間・最後の3回だけでしたね。リモートのコミュニケーションにはオンライン会議ツールのzoomを活用して、週1、2ペースでオンライン会議を行なっていました。会議はもちろん業務後。zoom会議はG-netが設定して、全ての会議に同席してくれていました。プロジェクトで気になる点があるようなら私たち事務局側にも連絡が入り、進め方などをサポートしてくれました。
−リモートでも期間限定でも最大限貢献したいという真剣な気持ちがすごく伝わってきます。結果プロジェクトは大成功だったようですが、はじめからうまくいっていたのでしょうか?
三木 どのチームも1回は揉めてますよ(笑)ビジョンはあるけど漠然とした話が多かった受入側の経営者さんに対して、「社長、もっと具体的に言ってもらわないとわかりません!」とか言っちゃったり。でも、それはメンバーが本気だからなんですよね。
安田 富士ゼロックス側のメンバーの真剣な様子を見て、受入側の社員さんたちもびっくりしたみたいで。「この人たち本気だ。自分たちも本気でやんなきゃ」と思ったと。そうやって、どのチームも「みんなが変わる瞬間」がありましたね。そこからプロジェクトが加速していきました。
しかし、今回富士ゼロックスさんで聞いたシェアプロの取り組みの様子を聞いて、「期待に応えたい」「結果を出したい」という思いがあれば、受入側・参加側の垣根がなくなり、「プロジェクトメンバー」に変わっていくのかもしれないと思いました。「やる気さえあれば、誰でもできる。」そう後押ししてもらったような気がします。
これからの時代に個人はどんな風に働くのか、そんなヒントが見えたインタビューでした!後編では、今後、企業が副業や兼業をどのように活用していくべきかについてお話しいただきます。
編集部紹介
ふるさと兼業 首都圏プロモーションチーム
赤嶺 健
(インタビュー・インタビュー時撮影・ライティング)
小路 悠佳
(インタビュー・ライティング・記事編集)
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