お客様のニーズに寄り添い続ける精肉店のチャレンジ。自社の魅力を言語化し、新たなサービスを生み出す。
2023年03月30日(木)
2022年度も実施された、豊田市の企業が社外の多様な人材と連携して、課題解決や新規事業促進に取り組む「豊田市副業・プロボノ人材活用プログラム」。この記事では、有限会社 内藤精肉店の事例をご紹介します。コロナ禍の影響による事業の落ち込みもあり、新たなサービスの開発にチャレンジ。トヨタ自動車から3名のメンバーが参画したプロジェクトについて、内藤精肉店の内藤社長、三浦さん、犬塚さん、トヨタ自動車メンバーのTさんにお話を聞きました。
■企業名:有限会社内藤精肉店
■業種:精肉の小売/卸売業
■事業の種類:toC
■従業員数:社員3名 パート19名
■外部人材の受け入れ経験:無し
■本プロジェクトの業務内容: コロナ禍で減少した顧客層への新たなアプローチ方法の模索と検証。当初はキャンプ用のお肉のサービス化に絞っていたが、意見交換を重ね、内藤精肉店の強みを活かしたサービス開発へ移行し、お肉を用途別に注文できるサービスを企画開発。加えて、広報PRの検討と試行錯誤した
■課題や背景: コロナ禍で会食などが制限されるなかで、企業の福利厚生(社内食事会や運動会イベント等)の中止や、飲食店の利用頻度の低下などによる影響を受けた。
■外部人材の受け入れ期間:2022年7月~2022年12月
■受け入れ人数:3名
■企業HP:https://www.naitoseinikuten.com/
コロナ禍での事業の落ち込みを打破するために
1975年に、ショッピングセンターの片隅で、創業者夫婦が事業をスタートさせた内藤精肉店。現在は、豊田市伊保町に店舗を構え、地元愛知県産の「鳳来牛」をはじめ、お客様の多様なニーズに応える質の高い牛肉を取り扱っています。「うまい肉と感動を創る」という経営理念のもと、おいしい牛肉でお客様の思い出づくりをお手伝いしてきました。
もと業者向けの卸売がメインでしたが、10年前の店舗改装を契機に一般の方向けの小売に力を入れてきたといいます。けれど、小売の業績が伸びてきたところに、新型コロナウイルスの感染拡大による大きなダメージを受けました。内藤精肉店が強みとしてきたのは、お客様の希望に柔軟に応える仕事。例えば、食べたい部位や人数に合わせたバーベキューセットをご提案するなど、質の高い肉に人の力で付加価値を加えてきました。コロナ禍でそうした大勢で肉を楽しむ機会が制限され、小売の売り上げが減少…。なにか手を打たねばと考えていたところ、今回のプログラムを知ります。
内藤社長「これまで副業やプロボノの方を受け入れたことはありませんでした。どういうプロジェクトができるのか、イメージできなかったのが正直なところです。それでも、新しい挑戦が小売の業績回復の一手になればという期待はありましたね。さらに、トヨタ自動車の方と一緒に仕事をすることで、自社の事業のマンネリも脱却できるかもしれない。そんな思いで参加を決めました。初めての経験ばかりで、コーディネーターであるG-netさんの存在はありがたかったです。アドバイスをもらいながら、どんなプロジェクトにするかを考えました」
内藤社長の呼びかけで、三浦さん、犬塚さんのふたりもプロジェクトに参加。精肉店ならではのノウハウを活かした、キャンプやバーベキューで楽しめるセット商品の企画・販売を目指すことになりました。
そして、トヨタ自動車から参加したのがTさん、Aさん、Kさんの3名。これまで主に間接業務を担当してきたというTさんは、「お客様と直接向き合うビジネスが経験したいと立候補しました。食べることにも興味があったので」と参加動機を語ります。Aさん、Kさんは、トヨタ自動車では開発部門に所属しており、専門分野の異なるメンバーが集いました。
本音のぶつけ合いからプロジェクトが加速
2022年7月から4ヶ月のプロジェクトがスタート。毎週ミーティングを開き、当初の目的に沿ってバーベキューセットの開発に向けて、情報収集や意見交換をしました。トヨタ自動車メンバーが、マーケットの規模、肉の贈答品の事例、キャンプの流行など、市場の現況を調査。情報をもとに商品のアイデアを出し、2ヶ月ほどでバーベキューセットの形が見えてきます。しかし、プロジェクトの方向性に対して、「本当にこのままでいいのか?」とメンバーそれぞれが疑問を抱くことに…
三浦さん「当社の魅力をどう伝えるかが大切なのに、いつの間にか商品にばかり目が向いてしまっていました。お客様の視点よりも、自分たちがつくりたいものになっているように感じて。違和感を感じながら参加していましたね」
Tさん「私自身も少しもやもやしていました。意見は出すものの、商品を形にして下さるのは内藤精肉店のみなさんです。口を出しているだけでは…と申し訳ない気持ちもありました」
さらにプログラムの中間発表で、アドバイザーから「内藤精肉店の強みは接客サービスにあるのでは?」と問いかけられます。コーディネーターからもアドバイスがあり、プロジェクト期間も半分が過ぎた頃、内藤社長はメンバーに腹を割って話そうと投げかけました。
内藤社長「前半は、みんなが本音を出せていない印象でした。野球でいえば、牽制球ばかり投げてうかがっている感じ。悶々とした空気を壊すために、ストレートに話す場を設けて。それ以降、チームの様子が変わったと思います」
改めてこれからなにをすべきか話し合い、内藤精肉店の魅力を見直しました。店頭でお客様と丁寧なやり取りをしてピッタリの肉を提案できる。そのサービスこそ、もっと広く知ってもらうべきと方針が定まりました。後半の2ヶ月で、内藤精肉店の魅力の言語化、プロモーション施策の実施、ECサイトの構築などが、どんどん進められていきます。その中で、新サービス「Meat Me」が生まれました。Meat Meは、誕生日などの記念日にふさわしい肉を内藤精肉店のプロに選んでもらえるというもの。どの肉を選んだらいいか悩む必要がなくなります。Meat Meを含む内藤精肉店のサービスや魅力を、チラシやSNSで発信することもできました。
犬塚さん「これまで外に出せていなかったサービスを、明確な言葉にできてよかったです。お客様からどんな情報が得られるといいのか、サービスの方法についても一緒に考えてもらえて、実際に店頭で試しながら改善できました」
ECサイトの開設、新サービスのスタート、プロモーションツールの作成など、4ヶ月を通していくつもの成果物が出来上がりました。トヨタ自動車のメンバーは、各々の得意分野に応じて役割を分担し、積極的な関わりができたそうです。
Tさん「内藤社長の力強い声かけを機に、私たちの動きも変わったと思います。Aさんがリーダーシップを発揮し、KさんはWebサイト関係の業務を、私は広報ツールの作成などを担当しました。目指すゴールは変わりましたが、4ヶ月でMeat Meを世に出すところまで辿り着けてよかったです」
一度はメンバー間に迷いも生まれた内藤精肉店のプロジェクト。慣れない間柄で少なからず遠慮も生じる中、率直なコミュニケーションが状況を変え、結果的に多くの成果につながりました。
チャレンジを経て、変わる働き方
今回のプロジェクトを踏まえ、内藤精肉店では引き続きブラッシュアップが重ねられています。参加したメンバーは、今回の活動を通してどのような気づきを得たのでしょう。
内藤社長「トヨタ自動車のみなさんは、常にPDCAサイクルを回しながら、次のステップを考えていました。当社はこれまで、なにかに取り組んでも、PとDで終わってしまう場合が多く…。社内での仕事の仕方を見直し、変えていくきっかけも得られました」
三浦さん「ミーティングの進め方、資料の見せ方、課題抽出の仕方と解決までのプロセスなど、たくさんの学びがありました。社外のメンバーが入ると、普段と違うほどよい緊張感も生まれて、その雰囲気が今までにない成果につながったのではないでしょうか」
犬塚さん「新しいサービスを始めるからといって、簡単に人を雇えはしません。中小企業ならなおさらです。今回のように協力してもらえるのは、とてもありがたいと実感しています。企業側がなにをしたいかはっきり示すと、いいマッチングができるのでは」
Tさん「ミーティングで決まった内容がどんどん実行され、商品もすぐに形になってくる。スピード感ある仕事の仕方を見習うべきだと思いました。今回のプロジェクトで使った連絡ツールなどを私の部署でも取り入れ、仕事の効率がアップしています。今後に活かせる経験ができました」
内藤精肉店、トヨタ自動車、双方の職場環境にもいい影響を生んだようです。内藤社長は、こうした人材活用の方法に可能性を感じたといいます。
内藤社長「当社のようにリソースの少ない企業にとって、副業やプロボノの方の協力を得られるのは大きなチャンスです。日常の業務に追われて手がつけられていない部分を前に進められる。「やりたい」を「できる」に変えられました。さらに、当社を客観的に見てもらえるので、強みや魅力を再確認できます。私だけでなく、3人でプロジェクトを担当したおかげで、人材育成の場にもなりました。社外のノウハウから学ぶ機会を、もっとたくさんの社員に持ってもらう重要性も感じています。組織を動かす上で、これまでよりも多様なやり方を選択できる柔軟さも身につけられたのでは。成長したい企業にはおすすめの方法です」
自社の強みや魅力を確かめ、新サービスも生まれた内藤精肉店。事業を動かす方法の幅を広げた同社が、今後どのような進化を遂げていくのか楽しみです。
※本記事はNPO法人G-netが、豊田市産業労働課「副業・兼業等人材と市内中小企業とのマッチング支援業務」の委託を受けて作成しています。また、本事業は豊田商工会議所、豊田信用金庫との包括連携協定事業として実施しています。
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