愛する地域と共感する事業で選ぶプロジェクト型兼業・プロボノweb

昆虫食の新規事業に挑戦。専門分野の異なるメンバーが市場を鋭く紐解く。 | ふるさと兼業

昆虫食の新規事業に挑戦。専門分野の異なるメンバーが市場を鋭く紐解く。

昆虫食の新規事業に挑戦。専門分野の異なるメンバーが市場を鋭く紐解く。

2022年度も実施された、豊田市の企業が社外の多様な人材と連携して、課題解決や新規事業促進に取り組む「豊田市副業・プロボノ人材活用プログラム」。この記事で紹介するのは、昆虫食事業の立ち上げに取り組んだ、株式会社ニシヤマの事例です。フルオンラインで、2名の兼業人材が参画しました。プロジェクト開始から約2ヶ月のタイミングで、ニシヤマの田中社長とメンバーのMさん、Yさんにお話を聞きました。

  受入れ企業概要
■企業名:株式会社ニシヤマ
■業種:食品製造・卸売
■事業の種類:toB
■外部人材の受け入れ経験:無し
■本プロジェクトの業務内容: コオロギを中心とした未来の食材である「昆虫食」の事業の立ち上げ
■課題や背景:長年、蜂の子などの扱いも含め、食品の卸販売をしてきた経験を活かし、新たな事業に挑戦したい
■外部人材の受け入れ期間:2022年12月~2023年4月
■受け入れ人数:2名
■企業HP:https://nishiyama-foods.co.jp/

 

 

蜂の子からコオロギへ。事業拡大への一歩を踏み出す

株式会社ニシヤマの創業は1946年。長年にわたって豊田市で食品の製造と卸売事業を営んできました。水煮、乾物、漬物など多彩な商品を揃え、特に保存性の高い野菜の塩蔵原料が高品質と評価を得ています。さらに、特徴的な商品として蜂の子も取り扱ってきました。こうした事業を前提に、田中社長は昆虫食のさらなる可能性に注目してきたそうです。

 

田中社長「栄養価に優れた昆虫は、これからの食材として取り上げられています。当社は蜂の子を販売してきたので、コオロギなど他の昆虫も調べてみたいと思っていました。ただ、同じ昆虫食とはいえ、蜂の子とコオロギではまったく別物です。そもそもコオロギを知らない、商品の仕入れや販売の仕方も分からない。そんな状態で、数年間が過ぎていて…。社内に知識もノウハウもなく、社員たちは各々の担当業務に忙しい。最初の一歩を誰かに手伝ってもらえないかと考え、今回のプログラムへの参加を決めました」

 

こうして、昆虫食の新規事業立ち上げメンバーを募集。神奈川県在住のMさんと大阪府在住のYさんが採用されました。ふたりの参加動機を聞いてみると。

 

Mさん「普段はIT関連の企業に勤めています。本業ではできない仕事がしたいとプロジェクトを探し、食品分野への関心もあって応募しました。」

 

Yさん「管理栄養士として、レストランへのメニュー提案、特定保健指導などの仕事をしてきました。実は以前に、コオロギを使ったメニュー開発に関わったことがあって。また挑戦してみたいと思い、このプロジェクトに参加しました」

 

事業のスタートにあたり必要だと考えたのは、市場の情報を収集して分析できる人材や、販路開拓のために顧客とやり取りできる人材、そして、コオロギの食材としての活用方法を模索できる人材。Mさん、Yさんは、田中社長のイメージする強みや経験を持っていました。ふたりの異なる専門性が掛け合わされば、事業を加速させる化学変化も起こせるのではないかと期待したといいます。

 

 

三者三様のリサーチで市場を多角的に分析

プロジェクトは2022年末にスタートし、毎週オンラインミーティングで意見を交わしました。最初に取り掛かったのは、コオロギや昆虫食マーケットのリサーチ。食材としてのコオロギの特徴、コオロギを生産する企業、他社の成功事例などを各自が集めます。Mさんは独自の視点で昆虫食に関する国の方針の調査も。

 

Mさん「新しい食材を広める上では、確かな安全性も求められます。国がどんな方針を出し、動いているのか、農林水産省のガイドラインを確認して、メンバーに共有しました」

 

一方で、Yさんはコオロギの粉末のサンプルで試作を開始。自らのつながりを活かして、消費者への聞き取りも行いました。

 

Yさん「田中社長が送ってくださったサンプルは、以前に口にしたものとは違う味でした。調べていくと、育て方によって味や栄養価が変わる食材だと知り、一層興味を引かれました。また、今は一般的ではないコオロギがどこで受け入れてもらえるのか、給食関係の仕事をしている人たちにも印象を聞いてみました。「興味はあるけれど、いきなり取り入れるのは難しい」といった声を耳にして、この事業の可能性とハードルの高さを感じています」

 

情報収集と整理が進み、どの生産者からコオロギを仕入れるかもほぼ決まりました。プロジェクトは、販売先を開拓していく段階へ。Mさんは、顧客への紹介用の資料作成にも取り掛かっています。田中社長に前半2ヶ月の動きを振り返ってもらうと。

 

田中社長「MさんもYさんも、それぞれの視点から有益な意見を出してくれます。どんな情報が必要か自分で考え、動き、結果的に多角的な情報を集められました。私が見落としてしまっていた点にも気づいてもらえて。商品のアピールや販売の方法に先走ることもなく、事業の足元をしっかり固めてもらえたと思います。

そして、いよいよ商品を販売していくには、乗り越えるべき壁がいくつもあります。まだまだコオロギを必要とする人が限られている状況で、生産者ではなく卸売の立場からいかに強みを発揮できるか考えているところです」

 

後半2ヶ月で取引実績をつくることを目指し、MさんとYさんも思案を続けています。

 

Mさん「成功事例をみると、コオロギを前面に押し出し過ぎないブランディングがされているものもあります。高齢者を中心に昆虫食を避ける意見もみられるので、対話しながらニーズを丁寧に探り、PR方法を工夫したいです。お客様への提案もしてみて、ご意見を真摯に受けながら方向性を探っていけたら」

 

Yさん「ニシヤマからコオロギを仕入れてもらうには、差別化された付加価値が必要です。メニューのレシピをつけるなど、昆虫食に興味のある人に刺さる商品を形にしたいと思っています」

 

ニシヤマにとって新たなマーケットへの参入するチャレンジ。4ヶ月でどんな成果が生まれるのでしょう。

オンラインの手法が、現状打破のきっかけに

外部の人材とともに事業に取り組むのはニシヤマでは初めて。田中社長はいくつものメリットを感じているそうです。

 

田中社長「オンラインツールを活用すれば、距離が離れていても、パッとつながってやり取りができます。当社のような地方の中小企業にとっては、これまで関わる機会のなかった優秀な人材と出会い、力を貸してもらえる大きなチャンスです。社内だけではできない事業を前進させられました。こうしたコラボレーションを、機会があれば今後も活用していきたい。

同じテーブルでさっと資料を広げられるわけではないので、オンラインに合わせたコミュニケーションも大切だと感じています。最初は、どの程度の仕事をお願いできるのか手探りの時もありました。過度な負担をかけられるわけではない。かといって、遠慮し過ぎてもお互いに達成感や満足感を得られない。物理的な距離がある分、気持ちよくご一緒できるプロジェクトの進め方をきちんと考えるべきだと気づきました」

 

未経験の方法の導入したことで、新しい事業展開のノウハウが積み上がっています。オンラインで仲間を募るメリット、プロジェクトを動かす上での距離感の整え方など、プロジェクトを動かしてみて実感できるポイントがいくつも伺えました。

 

 

※本記事はNPO法人G-netが、豊田市産業労働課「副業・兼業等人材と市内中小企業とのマッチング支援業務」の委託を受けて作成しています。また、本事業は豊田商工会議所、豊田信用金庫との包括連携協定事業として実施しています。