95年続く醸造場の新規事業を後押し。組織の軸にあるコアバリューを明確な言葉にする。
2022年03月23日(水)
豊田市の企業が社外の多様な人材と連携して、課題解決や新規事業促進に取り組む「豊田市副業・プロボノ人材活用プログラム」。2021年末から約3~4ヶ月にわたり、10のプロジェクトが実施されました。この記事では、味噌、たまり、漬物の製造を手掛ける丸加醸造場のプロジェクトを取り上げます。歴史ある醸造場が計画している新たな事業にトヨタ自動車の研修プログラムとして参加したメンバー3名が参画しました。
■企業名:株式会社丸加醸造場
■業種:豆みそ・たまりの醸造漬物・惣菜の製造
■事業の種類:toC、toB
■従業員数:37名+(パート16名)
■外部人材の受け入れ経験:無し
■本プロジェクトの業務内容: 蔵カフェOPENまでの準備実行・企画、SNSを初めとして「丸加醸造場」の名前が広がるための打ち手を考える。
■課題や背景: お土産「山ごぼう味噌漬け」が主力商品の老舗味噌屋。近年業務用割合が高かったが、コロナで出荷が激減し、toC向けに蔵を改装した蔵カフェを展開する予定。カフェと本社両方の認知度向上のために経営者1人ではやりきれない部分が多かった。
■外部人材の受け入れ期間:2021年12月~2022年3月
■受け入れ人数:3名
■企業HP:https://marukajozo.com/
カフェ事業の準備をメンバーとともに
丸加醸造場は、昭和2年から豊田市越戸町で味噌、たまりの醸造業を営んできました。
戦後に、現在も主力商品として長く愛される「山牛蒡味噌漬」の製造を開始。集団就職で九州などから豊田へやってきた人たちの、故郷へのお土産の定番として定着したといいます。お土産だけでなく飲食店で提供される業務用の需要が徐々に高まり、近年は業務用の売上に占める割合が大きくなっていました。ところが、コロナ禍によって業務用の出荷が激減。打開策として、個人のお客様が気軽に購入できる蔵を利用したカフェ「haccosido(ハッコシド)」を開く計画が立てられます。4代目社長である岩瀬浩司さんは、新たな事業を展開するにあたり、トヨタ自動車の研修プログラムとの連携を考えました。
岩瀬さん「外部の方の力を借りて、カフェ事業を動かすとともに自社の認知度アップを目指したいと考えました。社内ではひとりでカフェの企画を進めてきたので、他の方の経験や知恵を得たいという思いが大きかったです」
このプロジェクトには、トヨタ自動車からN.Sさん、N.Cさん、I.Yさんが参画することに。
カフェを作っていくことに興味を抱き、「今まで仕事やプライベートで得てきた経験を違う環境で活かしたい」というN.Sさん。元々事業企画に関心があり「新しい事業を動かすのに自分の意見やアイデアを出し、作り上げる経験がしてみたい」というN.Cさん。新規事業やマーケティングについて学び「目線を変えて、新たな価値を生み出すビジネスに関わりたい」というI.Yさん。それぞれの期待を胸にチームが走り出しました。
「やりたいこと」のズレを乗り越えて
「カフェのオープンに向けて準備を進めながら、丸加醸造場の認知度を高めていく」。岩瀬さんの目標に対し、各々ができることを考えて、取り組みが進められました。
丸加醸造場の事業や商品の価値の再確認。新たな顧客を獲得するためのパッケージなどの改善提案。豊田市内で丸加醸造場の商品を扱ってもらえそうな店舗のリサーチ。地域情報誌での掲載を目指した働きかけ。SNSで発信するコンテンツやイラストの作成。今後開拓していきたいターゲット層への意識調査。また、丸加醸造場が年に一度開くイベント「のれん市」の広報活動や、来場したお客様へのヒアリングも行いました。カフェ事業が成功するために、なにを発信していくべきか、どこを改善するといいのか。メンバーの目線から現状を分析し、提案と議論が重ねられていきました。
▲「のれん市」で活動した際の様子
▲人材が作成したSNSで発信するコンテンツやイラスト案
一方で、こうして活動が進む中、企業と人材の間でプロジェクトを通してなにを実行していくのか方向性を見失いかけた場面もあったといいます。
岩瀬さん「私がお伝えした目的を踏まえて、メンバーのみなさんがやりたい、できると思ったことをやってもらえたらと思っていました。けれど、実際の動きに対して、自分が『やってもらえるといいな』とイメージしていることとズレを感じて。活動のベクトルがうまく合わない時期があったように思います。私は、認知度アップというと、SNSなどをコツコツ動かしていくのみと考えていました。
それに対してみなさんからは、当社の価値観を改めて明確にしようという提案をいただき。その意図を飲み込めないままに進んでしまっていた。上司部下の関係でもない方にどう伝えていくといいのか悩ましくもあり。こうしたプロジェクトの難しさも実感しましたね。
振り返ると、ズレを感じた時点で、はっきり口にできたらよかったと思います。そもそも日常的な環境がまったく違う。当たり前が異なるのを前提に、分からないことはその場で確認する、方向性が共有できていないなら納得いくまで具体的にすり合わせる。互いを理解できるまで話ができれば、『なるほど、そういうやり方もあるのか』と新しい視野が開けました」
メンバーからも、「本音でやり取りできる関係づくりの大切さを感じた」という声が聞かれました。経営者のやりたいことを受けて、人材側から新たな提案をするのも、プロジェクトの成功を考えてのこと。とはいえ、せっかくの案も両者の間で納得が得られなくてはすれ違いの原因になってしまう。意図を確かめ合うことが不可欠であると認識した上で、改めてプロジェクトのゴールを見定めていきました。
会社の方向性を示す価値観を言語化
最終的な成果のひとつとなったのは、丸加醸造場が事業を営む上で重んじる価値観、いわゆるコアバリューの言語化。中長期的な目線で、この先の広報活動などにも活用できる言葉を作り上げることに。岩瀬さんだけでなく、社員さんの声も聴きながら、まとめられていきました。
岩瀬さん「コアバリューを言葉にできたら、広報活動はもちろん、これから新しい人が入ってきた時にも、社員の共通言語として伝えていくことができます。社内での認識のズレを減らしていくためにも役立つでしょう」
カフェ事業のスタートを前に、従来とは異なる視点から自社を見つめ直す機会になったのではないでしょうか。
メンバー3人も、今回のプロジェクトを通して、自身のものの見方の変化を感じたようです。
N.Sさん「新しい世界に触れて、今までよりもいろいろな情報をインプットして考えようという意識が高まりました」
N.Cさん「街で見かけたものの売り方、見せ方が気になるようになりました。ひとつのものを多様な角度から分析する力は、今後の業務の中でも活かせると思います」
I.Yさん「メンバーとしてプロジェクトに関わる上で、異文化を尊重し、積極的に学ぶ姿勢は欠かせません。これからこの研修プログラムに挑戦する人にも伝えたいです」
自社にない考え方やノウハウを取り入れられるのは、多様な人材とともにプロジェクトを進める上での大きな利点のひとつです。視野を広げて作り上げたコアバリューは、丸加醸造場の価値や魅力を世の中に発していく指針として根付いていくでしょう。
※本記事はNPO法人G-netが、豊田市産業労働課「副業・兼業等人材と市内中小企業とのマッチング支援業務」の委託を受けて作成しています。また、本事業は豊田商工会議所、豊田信用金庫との包括連携協定事業として実施しています。
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