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「顔の見える木材」への想いを外部人材と共にWebで表現 | ふるさと兼業

「顔の見える木材」への想いを外部人材と共にWebで表現

岸田木材

老舗企業の後継者の想いを実現するパートナーとして「兼業人材の活用」が注目されています。今回ご紹介するのは、富山県氷見市で100年以上続く製材業「岸田木材株式会社」の事例。現在の社長が取り組んできた地元の木を地元で使う活動は、SDGsの文脈でも注目すべき取り組みであるにも関わらず、その情報が顧客に届けられていない。岸田木材の想いを正しく世の中に伝えたい。そんな想いに共感した兼業人材たちとのチームが動き出しました。

受入れ企業概要
■企業名:岸田木材 株式会社
■業種:製材業
■事業の種類:メインはtoBで製材業
       社会貢献活動として toC向けのイベントを企画、商品企画等も
■企業規模:資本金4800万円・従業員数 33名
■外部人材の受け入れ経験:無し
■兼業PJの業務内容:SDGsの文脈で岸田木材が取り組んでいる内容をWebで表現するためのサイトリニューアル
■受入れフェーズ:自社内にスキルを持つ人材がいない/必要な人材が分かるプロジェクトができている
■企業の抱えている課題
 ①分野:マーケティング・広報/デザイン・ライティング
 ②課題:知識/ノウハウ不足・専任担当者の不在
■企業HP:https://kishidamokuzai.co.jp/

 

創業100年以上。木材を通して地域の人に愛されている岸田木材の魅力

岸田木材の歴史は、100年以上にも渡ります。

はじまりは、富山県氷見地区の宮大工棟梁として、京都から大工集団を統率し、東本願寺の一部を建設したこと。その後、建設業・土石業・電柱製造の3つに分かれた事業を明治16年に起こしました。
伐採、製材業を中心に行なう岸田木材は、土木が“土”と“木”という言葉で成り立っているように、その土地や暮らしている方々と深く関わる仕事をしています。

岸田木材は、もともと外材(海外からの木材)を扱っていました。

木は、育つまでに50年ほどの長い月日がかかります。その間に“国内の木材を使う”のではなく“海外の木材を安く仕入れる”という流れになってしまい、収穫期を迎えた今、“国内の木材を使わなければ森が破壊されてしまう”状態まで来ているそうです。

このままでは森が機能しなくなってしまう。私たちの生活の循環が止まってしまう……。

そうして、岸田木材は荒れた森を再生するために整備活動を行なったり、次世代を担う子どもたちが森に触れられるイベントを開催したりと、活動の幅を広げはじめました。

▲岸田木材を中心に、氷見の里山に入るイベントなどを実施している

そんな岸田木材が2020年に始動したのが、“家”にフォーカスを当てた『「家を買う」から「つくる」に戻したい!想いをWEBで伝えるプロジェクト』です。

 

家は「買う」ものではなく「つくる」もの。「顔の見える木材」にこだわる理由

プロジェクト名には、創業当時から受け継がれている強い想いが込められています。

岸田さん「私たちは家を”買う”ものではなく“つくる”という感覚を持ちたいと思っているんです。どこの木を使っているのか、そもそもどのように生えているのか、誰が育てているのか。誰が切って、どうやって運んでいるのか……という一連の流れを知らない。家を建てるのは一世一代の大仕事だし、そばにあるものなのに、知る機会がないのは悲しいと思い、生産者と消費者の距離を縮めるプロジェクトをはじめました」

清水建設を経て2018年1月に岸田木材株式会社に入社し、専務取締役に就任した岸田 真志さんは、そう語ります。

そのなかで、もっと活動を知ってもらうためにホームページをリニューアルしようという流れに。2019年にはブランディングのパートナーを探し、2名をプロボノ(ボランティアとしてスキルを提供)採用し、新しい風が舞い込みます。

 

岸田さん「1年目は採用した全員が北陸にいたので実際に集まれることを大切にしていました。全員が会社員で副業が禁止されていたため、プロボノでの採用だったんです。プロジェクトを始めるまではプロボノの言葉もわからなかったのですが、報酬が発生しないということが“やりがい搾取”ではなく、スキルアップや体験に価値を感じてもらえていることがわかり、勉強になりました」

 

2020年はブランディングの方向性が固まっていたこともあり、1年目での経験を活かし募集をすることに。「ホームページをリニューアルする」という明確な目標を定めた上で、全員が副業という形をとりました。

マッチングしたのは東京都と静岡県に住んでいる2名。新型コロナウイルスの関係もありましたが、WEB関係だからこそリモートでコミュニケーションを取れたと振り返ります。

 

岸田さん「とはいえ、実際に現場を見るのと見ないのとだと感じ方も変わると思ったので、一度は来ていただけることを条件にしました。一緒に山を登ったり、工場を見学したりしました。現在はSlackやZoomなどのツールを使い、基本的にリモートで業務をしてもらっています」

▲ふだんはリモートでプロジェクトを遂行したが、現場にも足を運んだ兼業者たち。

目標は、全員が楽しく働き、会社に誇りを持てる環境をつくること

プロジェクトを通じて、コーディネーターにも入ってもらい、現状をヒアリングしながら課題を洗い出したり、どのように募集するのか考えたりと伴走サポートがありました。そのため、真志さんも次第に不安がなくなっていったそうです。

 

岸田木材は、社内の働き方にも少しずつ変革を起こしています。休みが不規則だったところを整え、休日を10日間増やしたり、毎週会議をして意見を聞いたりと、できることからはじめているのです。年に二回、業務形態関係なく全員と面談を行なうことで円滑なコミュニケーションもはかるようになりました。

 

目標は、全員が楽しく働き、会社に誇りを持てる環境をつくることだと、真志さんは話します。木材に関わっているということは、生活を支えているということ。すべての課題を一度に解決することはできなくとも、できる範囲から少しずつ解消していきたい、と。

 

岸田さん「これから兼業などを活用してプロジェクトをはじめようか悩んでいる方には気負わずにチャレンジしてほしいと伝えたいです。コーディネートしてくれる人がいると自然と形になっていくし、さまざまな働き方があるので、兼業やプロボノといった言葉にとらわれずにいてほしいな、と。きっと適した方法を教えてくれるので、まずは相談してほしいです」

 

プロジェクト結果概要
■人材の条件
・関わり方:兼業(’20年度)、プロボノ(’19年度)
・頻度:週1回程度のMTG(オンライン)
・原則リモート、一部現地視察あり
■必須条件や歓迎条件:
・チャレンジを楽しめる人/チームプレーを楽しめる人/SDGsの現場に関心がある人
・以下の中から複数以上のスキル、経験を有する人
 *SDGsの取り組みに実質的に関わる
 *WEBサイトのデザイン、構築
 *ライター経験がある、または文章が書くことが好きな人
 *Webブランディングの実務経験者
2020年10月~2月内での3カ月間、チームメンバーとして活動できる方。リモート打合せが可能な方、現地(富山県氷見市)に来れる方は優遇。

■兼業者の経歴

1人目:地元電力会社にてSDGsを担当。環境価値取引やエネルギー関連、IT分野には一定の知識を持ちながら、岸田木材のビジョンに共感してプロボノとしてプロジェクトに関わる。2年目は東京に転勤になる。

2人目:東京出身、結婚で石川県へ。地元電力会社で広報担当。広報、人事、IRや営業力などの経験を活かしたいという想いで参画。

3人目:東京出身、静岡在住。小売店・卸売等、保険の営業等を経て、webデザインを勉強し、フリーランスのwebデザイナーに。

4人目:IT企業での社内ビジネスプランコンテストにて、採択されたCtoCのローカルガイドマッチングサービスを事業責任者として立ち上げ。

■結果
岸田木材が取り組んでいる内容をSDGsの文脈で再整理。それらをどのようにサイト内で表現するかを検討。方針を固めつつ、SDGsに関するページを作成。2年目は1年目に作成したサイトの再構築案をもとに、デザインからサイトのリニューアルまでを実施。

またこれらのプロジェクトに新入社員が関わることにより、社外人材とプロジェクトを進めていくための手順や岸田木材が伝えたいメッセージをプロジェクトを通して学ぶ社員育成の場ともなっている。

■コーディネーターの役割

募集ページの作成にあたって、プロジェクトの切り出しと求める人材像の明確化。処遇概要書の様式など、契約手続きのフォロー。

ミーティングへの同席は数回程度。定期MTGは週1回で、ファシリテートは副業人材が担当。コーディネーターslack内での情報キャッチアップをしながら、フィードバックや参考事例などを共有。また、成果のPRについてアイディア出しや場の提供などを行った。


 ※令和2年度「中部経済産業局における地域中小企業・小規模事業者の人材確保支援等事業(次世代コア人材)」によりプロジェクト支援を実施

※本記事はNPO法人G-netが中部経済産業局「令和2年度「中部経済産業局における地域中小企業・小規模事業者の人材確保支援等事業」(次世代コア人材)」の委託を受けて作成しています。