2024年03月18日(月)
【地域事例集in青森】老舗建具屋の跡継ぎの不安をチームの力で支える。地域に開いた結果、新しい可能性が広がった。
2024年03月18日(月)
ふるさと兼業は2023年9月に5周年を迎えました。地域コーディネーターとの連携を広め、全国にプロジェクトを拡大中です。
今回は、青森県のプロジェクトをご紹介。創業60年を誇る老舗企業の新たなチャレンジです。
■「このままではいけない」 創業60年、地域密着企業の3代目のチャレンジ
青森県五戸町にある有限会社五戸木工は、創業60年、地域密着の建具屋です。建具作りや修繕、障子や襖の張替え、家具のリフォームなどを手掛けています。取引先は個人から学校、公共施設、寺院など多岐にわたり、丁寧な対応や職人の技術力が評価されています。
プロジェクトオーナーは五戸木工の三代目・中野翔太さん。企画営業職などを経て、結婚を機に2015年にUターン。家業である(有)五戸木工に入社しました。現在は、社長である父・久男さんとともに、多岐にわたる業務を担いながら、「我慢してやるのではなく、自分が楽しいと思える仕事ができる職場環境づくり」を目指し、試行錯誤を重ねています。
現状、五戸木工の売り上げは委託の仕事が大半を占めていますが減少傾向にあります。翔太さんは、三代目を継ぐことを見据えながら「従来のやり方を続けるだけではいけない。自分たちならではの新しい事業が必要だ」と感じていました。そこでまず始めたのが、SNSの活用です。建具屋の仕事や、職人の世界観を知ってもらおうと、オーダーメイドで作った家具や、職人さんの技術、建具屋の仕事内容や現場の様子を、Instagramに投稿することから始めました。次に着目したのが、建具の製作過程で大量に出る廃材です。廃材は冬に作業場で暖を取るための燃料としても使いますが、これを活用した新規事業ができないか?と考えていました。
■五戸木工とふるさと兼業の出会い
青森県五戸町では、町内事業者と外部人材をマッチングし、オンラインなどを活用しながら、事業者の課題解決につなげる「五戸みらいラボ」事業を展開しています。事業者のニーズや課題に合わせた様々なプロジェクトを設計し、伴走してきました。本プロジェクトは、令和4年度にこのスキームにおいて、事業者・兼業者・行政・中間支援団体の4者で「ふるさと兼業」を活用し、取り組んだプロジェクトです。
令和4年夏、参画事業者の募集と、事業者ヒアリングをスタートしました。五戸町と連携し、町内事業者へ採用活動やオンライン活用に関する調査票を送付し、回答を得られた事業者の中から数社にヒアリングを行いました。その中の1社が五戸木工です。ヒアリングの中で、翔太さんから会社や仕事に対する思いや、次期経営者として、自分が会社を担っていくことに対する思いを伺いました。久男さんも、任せられるところは任せてきたいと、翔太さんの背中を押してくれました。翔太さんの熱意と久男さんの後押しが起点となり、五戸木工のふるさと兼業プロジェクトが動き出しました。
当初は、廃材を活用した新規事業立ち上げを進めるにあたり、ノウハウもないので相談しながら一緒に取り組んでくれる人材を募集する予定でしたが、翔太さんの経営者としての成長プロセスにおいて、自身の言葉でビジョンを作ることや、それに対しての壁打ち、アドバイスもしてくれるような人材も必要なのでは?という話になりました。そこで、廃材を活用した新規事業についてだけではなく、事業全体や経営についても、中長期的に相談相手として伴走してくれるような外部人材を、ふるさと兼業で募集することとなりました。
■「誰と一緒に取り組みたいか?」プロジェクトオーナー自らの選択
募集開始後、さっそく多様なプロ人材からの応募がありました。一次面談はコーディネーターが行い、仮説をたてて翔太さんに共有。最終面談では応募者と翔太さんと直接話してもらい、最終的に「誰と一緒にプロジェクトに取り組みたいか?」を翔太さん自身に決めてもらいました。採用の経験もほとんどなかった翔太さんにとっては、自分の思いを自分の言葉で伝える経験や、その思いやプロジェクトに対して共感してくれた人と対話する経験などからの学びもありました
最終的に、埼玉在住の公認会計士Hさんがマッチングしました。ご自身もお仕事をしながら、「日本が元気になるには地域の企業を支えることが必要不可欠」と感じ、地域団体でのプロボノ活動などもされています。また、起業家養成プログラムの社会人メンターとしても活動されていて、翔太さんのような次期経営者の思いや不安の言語化など足りないところを支え、それに対する次の一手を一緒に考えてもらう相手として適任と感じました。
■機会をフル活用し、「廃材活用」に向けた糸口を探す
プロジェクトのキックオフでは五戸町の担当者とコーディネーターも参加し、翔太さんの話や悩みを受けて、それに対して「まずどこからやっていくか?」を決めること、翔太さんの根っこにあるものを可視化・言語化しながら、納得感を持って決めて進むこと、など、このプロジェクトの目的とゴールの摺合せを行いました。基本的にはオンラインで2週間に1回のミーティングの場を設けることとし、翔太さんからの話題提供とそれに対してのディスカッション、足りない情報は次回のミーティングまでにそれぞれがリサーチし持ち寄る、という流れで進めていきました。また、オンラインプロジェクトを円滑に進めるため、早い段階でHさんの会社訪問の機会を設けました。関係者が顔を合わせ、直接コミュニケーションを取る機会を早めに作ることで、相互理解を深め不安材料を取り除きました。
ミーティングでは、翔太さんから新商品開発のアイデアや、抱えている悩みごとなどが持ち込まれ、それを検討するにあたって必要なリサーチやマーケティングの視点、経営の視点から考えるべきことなどを、プロボノのHさんがフィードバックする形で進めていきました。
また、町主催の対話の場「五戸まちづくりワールドカフェ」にも参加し、翔太さんは町内外の多様な人材とディスカッションの中で、「廃材でガチャガチャを作る」というアイデアにたどり着きました。事例はあるのか?ニーズはあるのか?どんな場面で使ってもらえそうか?など話し合いながら、同時並行で試作も進んでいきました。職人さんにも協力してもらい、中の仕掛けまですべて廃材を使った木のガチャ「ウッドぽん」が出来上がりました。
1号機は、五戸町で開催された春祭りで、スタンプラリーの景品のくじ引きに使われました。公に出るのはその場が初めてで、最初は翔太さんも不安そうでしたが、楽しく遊んでくれる参加者の様子をみて自然と笑顔がこぼれていました。1号機は販売につながったほか、2号機も町のイベントなどへの貸し出しが広がり、認知度も少しずつ上がってきています。
■参画者全員がそれぞれの役割を全うし、次のステップへ
参画者は「翔太さんを支える」という目的のもと、それぞれの立場でできることに取り組んだプロジェクトでした。Hさんは経営的視点からのアドバイスと翔太さんのメンタリングを担い、町の担当者は、Hさんに不足している町の情報やいち町民としての感覚を補うほか、翔太さんが活用できそうな町の制度やイベントなどについての情報提供を積極的に行ってくれました。コーディネーターは、全員が遠慮なく話ができるよう雰囲気づくりや、円滑なミーティング運営に努めました。もちろん翔太さん自身も、遠慮なく疑問やアイデアを持ってきてくれたことにより、参画者も率直なフィードバックをできる関係性を築くことができ、最終的に目標であった「廃材活用」の実現につながりました。今も、必要に応じて情報交換やミーティングの機会を設けています。
本プロジェクトを経て、プロジェクト前後で翔太さんの思考もより前向きになり、表情も変わりました。ふるさと兼業をきっかけに会社を地域に開いたことで、さらにつながりが広がり、ほかの事業者との連携や、アーティストと連携した新しい廃材活用の動きも生まれています。これからも、「次の時代の五戸木工のあり方」を追求し、それを実現するためのチャレンジをひとつずつ積み重ねていくことでしょう。
プロジェクトURLはこちら(現在は募集を終了しています)
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