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ゴールは柔軟に変更。心のよりどころとなるファンクラブと、困ったとき頼れる同志を得る | ふるさと兼業

ゴールは柔軟に変更。心のよりどころとなるファンクラブと、困ったとき頼れる同志を得る

ゴールは柔軟に変更。心のよりどころとなるファンクラブと、困ったとき頼れる同志を得る

石川県能登町、能登半島の先で150年以上に渡って日本酒を造り続けている「松波酒造」。家族と地元に住む社員とで営む、「大江山」がメインブランドの酒蔵です。
松波酒造のECサイトやSNSなどは、若女将である金七聖子さんが一人で担当しています。今回のプロジェクトでは、副業人材が金七さんをサポートしました。副業人材は3ヶ月の間に新しいオンラインプロジェクトのスタートだけでなく、今後にも生かせるような社内外の分析を行い、適切な目標設定や対策、その検証方法などを伝授しました。

 

 

  受入れ企業概要
■企業名:松波酒造株式会社
■業種:製造業(酒造)
■事業の種類:toC/toB
■企業規模:5人
■他社へのおすすめ度合い(10点中★点)
 ・外部人材活用全体に対して…★★★★★★★★★
 ・事業開発に関して…★★★★★★★★★☆
 ・組織開発に関して…★★★★★★★☆☆☆
■外部人材の受け入れ経験:無し
■受入れフェーズ:試行錯誤する人は社長しかいない
■企業の抱えている課題:家族経営の小さな酒蔵で、若女将が一人でECショップ運営を担当しており、SNSの有効性は理解しているものの、トレンドが分からないまま運用していた。またSNSをきっかけに問い合わせがあっても買える店が把握できずチャンスロスをしていた。
■外部人材の受け入れ期間:2022年11月~2023年2月
■受け入れ人数:1
■企業HP:https://www.o-eyama.com/

 

 

本業やスキルより、話が合うことを重視

松波酒造が副業兼業人材の活用を考え始めたきっかけは、以前から知り合いだったコーディネーターに声をかけられたことでした。
同社はコロナ禍で、松波酒造では飲食店への卸や酒蔵を訪れる観光客が減少する中で、映画ポスターなどで有名な怪獣絵師・開田裕治さんとコラボし、新酒「大江山 鬼神」を発売したところでした。

 

 

開田さんのファンが多い、若い世代にもさらに情報を伝えるために、金七さんはInstagramの更新に力を入れ、自己流ながらも会社のアカウントに1000人ほどのフォロワーを集めていました。また金七さんは、ライブ配信を通じて商品を紹介し、視聴者とコミュニケーションを取りながら販売するライブコマースにも取り組んでいました。
しかし、会社に加え個人のアカウントでも日本酒の発信をしている金七さんは、更新だけで忙しく、他社分析や新たな対策まで手が回っていませんでした。
そこで、金七さんは松波酒造のことをわかってもらうために、毎週のライブ配信の視聴者を増やしたい、また配信への誘導も含め、初心者から一歩進んだ段階のSNS活用について教えてもらいたいと考え、副業兼業人材を募集することにしました。
応募の際は、コーディネーターが金七さんにヒアリングして募集内容の原案を作成しました。金七さんは「自分でやろうとするとハードルが高い。伴走してくれる人がいたことは大きいです。」と語りました。

 

4名の応募者の中から採用した方は、マーケティングやコンサルティングの会社に勤める30代後半の女性・キャシーさん(ニックネーム)。オンラインのマッチングイベントで最初に松波酒造の説明を聞きに来たキャシーさんは、日本酒に限らず食や旅が好きで、将来の起業も考え、ビジネススクールで学びながら中小企業の現場を知りたいと応募してきました。金七さんは「すごい経歴、高いスキルの方は他にもいましたが、自身とちゃんと付き合ってくれる人がいいと思っていました。その中で、キャシーさんは、自身と話が合いそうで、ほどよく感性が似ていると思いました。」

 

 

対策でフォロワー増加。現地を訪れて理解を深める

金七さんは毎週1回の定例ミーティングを開始しました。最初はコーディネーターも同席し、キックオフミーティングではニックネームで呼び合うことを決めました。
まず行ったことは、SNS、特にInstagramの対策です。同業他社や、日本の伝統産業で人気のあるアカウントについて、キャシーさんが主導で項目を立てて、分析を実施したところ、投稿の頻度よりも質を高め、保存数を増やすことの方が重要だとわかりました。また、効果がありそうなハッシュタグを探し、実際に使用し、効果を検証しました。
キャシーさんはフォローバックなど、Instagramの基本的な対策や設定、検証のやり方を金七さんに指南し、プロフィール文は、投稿する金七さんの人柄が伝わるよう、キャシーさんが書き直しました。こうした取り組みの結果、プロジェクト期間中にフォロワー数は約40%増加し、現在では1400人を超えています。「Instagramを見ています」と話す海外からの観光客も現れました。

 

プロジェクトを進める上で大切なことは「実際に会うこと、来てもらうこと」だと金七さんは話します。キャシーさんと初めて直接会ったのは、石川県金沢市でのイベント出店時で、キャシーさんが自主的に現地を訪れました。松波酒造の社員やお客さん、金七さんの友人などに会ってイベントを楽しむ中で、松波酒造に熱いファンがいること、そして石川の食べ物のおいしさ等が伝わりました。

 

 

その後、キャシーさんは友達との旅行で、金沢市から車で2時間半かかる松波酒造の酒蔵を訪問しました。金七さんとコーディネーターはキャシーさんに地元の人やおいしい飲食店を紹介し、都市からの距離感や、どんな場所で造られたお酒なのかということを実感してもらいました。海外も含め多くの場所を旅しているキャシーさんは、能登まで訪れると、松波酒造のファンになると感じたと語りました。

 

 

クローズドのファンクラブで交流を深める

そうした体験をしながら議論を重ねる中で、金七さんとキャシーさんは、大江山が「人と人との間で、共通して認識しているアイテムとして話題になるといいのではないか」と考えるようになりました。
そこで、松波酒造とファン、そしてファン同士の交流を活性化させられるよう、「女将ファンクラブ」を設立することにしました。顔と名前がわかり、松波酒造の情報を積極的に拡散してくれそうなお客さまを招待し、メンバーしか見ることができないFacebookグループを作成しました。
メンバーには、松波酒造の新しい情報を真っ先に知らせています。グループの運営では、キャシーさんが管理人の一人を引き受け、迷惑投稿への対応も含めた規程も作成しました。
金七さんは「自分で自分のファンクラブを作るという発想にはまずなりません。キャシーさんは私のキャラを理解して、私ではできないことをやってくれています。」と語っていました。
グループ設立後も投稿やコメントで交流を深め、今ではこのFacebookグループが「自分のよりどころになっている」と金七さんは話します。

 

2023年2月、金七さんはファンと直接会う機会を作るために、東京でイベントを開催。キャシーさんが参加者管理や電子決済のアプリの使い方を金七さんに教え、当日もサポートしました。
2023年5月に新型コロナが5類感染症に移行してからは、オンラインで増やしてきたファンに、対面でもさらに積極的にアプローチできるようになりました。「今後は新酒や季節限定酒など、増えるコンテンツを効果的に楽しんでもらい、いかに購入につなげるか、徐々に考えていきたい。また、Facebookグループでの飲み会も実現させたいです。」と金七さんは語ります。

 

プロジェクトは、最初に想定していた、ライブ配信の視聴者数増加やSNS対策とは違う形に終着しました。金七さんは「それでもいいと思います。3か月という短期間で “人” と付き合う機会であるため、何か問題解決につながればよく、やり方は柔軟に考えればいい。会社の魅力や弱点を分析してもらうだけでも価値があります。」と語ります。
金七さんに、今回のプロジェクトの一番の収穫を伺ったところ、「何かあったときに頼れる、同志のような人に出会えたことです。友達や常連のお客様には、自分が困っている話はなかなかできません。でも、キャシーさんに話したらおそらく、すぐに分析してくれます。現状を理解し、応援してくれるという信頼があります。」と言っていました。キャシーさんは今もFacebookグループの運営に携わっているため、金七さんは東京でのイベント時には手伝ってもらいたいと期待しています。

 

※本記事は令和5年12月時点の取材内容になります。松波酒造は令和6年1月に能登半島地震により被災され、現在は復興に尽力されています。

  プロジェクト結果概要
■人材の条件
・関わり方:副業
・頻度:週1回の定例のほか、現地訪問、イベント企画等
■必須条件や歓迎条件
<必須スキル>
Mac使っている、illustrator普通に使える、デザインセンスがいい、動画+画像編集できる、耳学問でない日本酒好き、田舎暮らしに興味がある
<歓迎スキル>
撮影好き、ガンプラ絵師の意味が分かる人、海外生活経験者、都会の飲食店とつながりがある人
<マインド>
・考え方:相手のメール待つより電話or会いに行った方が早いなーって思う人、話を聞く人
・関心毎:お料理、日本酒以外のアルコール、外食も好き

■副業者の経歴
住宅設計、リクルートを経てIT業界へ。ゲーム事業マーケティング担当。現在は、システム設計、コンサルティング。 グロービスにてMBA取得に向けて経営を勉強中。起業希望。
■コーディネーターの役割
ミーティングのキックオフと定例MTGへの同席(前半のみ)、現地ツアーのコーディネートと同行。人材がMTGのファシリテートをできるようだったので、MTGへの同席は最低限にとどめ、両者のイベントをサポートする形で関わった。
■結果
SNS対策を核に、お酒の周知と毎週金曜七時に行っているライブコマースの視聴数アップを目標としてプロジェクトをスタート。週1回のMTGと現地訪問等を通じて、強みを再整理し、SNSの投稿計画や取り組み事項の検討を行った。 日本酒の飲酒状況のアンケート、イベント販売や現地へのツアー実施、松波酒造の強み整理とインスタ投稿テンプレート作成、ハッシュタグの整理 ファンコミュニティの立ち上げ。

※「令和4年度中部経済産業局における地域中小企業・小規模事業者の人材確保支援等事業(次世代プロジェクト共創人材確保事業)」によりプロジェクト支援を実施

 
※本記事はNPO法人G-netが中部経済産業局「令和5年度中部経済産業局における地域中小企業・小規模事業者の人材確保支援等事業(副業・兼業等外部人材活用事業)」の委託を受けて作成しています。