事業の新たな一歩を踏み出すきっかけに。東北の魅力を発信するパンフレットを学生たちと制作。
2023年02月28日(火)
新型コロナウイルスの影響で、大学生の生活にもさまざまな変化が起きてきました。アルバイトができず収入が減ってしまった人も多くいます。そうした学生に対する支援として、休眠預金を給与して活用し、企業で働ける機会を提供する事業が2021~2022年度にかけて実施されました。ただ仕事を用意するだけでなく、参加企業それぞれが、課題解決や新規サービス開発などに取り組むプログラムをコーディネーターとともに設計。企業にとっても、学生にとっても新たなチャレンジの機会となった事例がいくつも生まれました。
本事業は、NPO法人G-netが、一般財団法人リープ共創基金「キャッシュフォーワーク 2021」の助成を受けて実施をしています。
この記事でご紹介するのは、株式会社仙台秋保醸造所の事例です。(募集記事はこちら。)
宮城県仙台市の秋保で、ぶどう栽培、ワイン醸造などに携わり、自社の拠点でもある「秋保ワイナリー」を営む仙台秋保醸造所。ワインを軸とした事業のひとつとして、地場の食材とワインを組み合わせる「テロワージュ」にも力を入れてきました。他の事業者とも連携しながら、東北の魅力的な産品を世に送り出す「テロワージュ東北」という取り組みも進めています。今回のプログラムもこうしたプロジェクトと関わりの深いもの。まずは仙台の魅力を広めるチャレンジにふたりの学生が参加しました。菅崎美莉さん(東北学院大学2年)と松元晶さん(北海道大学大学院博士課程1年)。おふたりと仙台秋保醸造所代表の毛利親房さんに話を聞きました。
―まず毛利さんから、休眠預金活用事業に参画した背景や意図をお話しいただけますか。
毛利 この会社は、東北の生産者を応援したいという思いで、2014年に設立しました。きっかけは東日本大震災です。主な事業であるワイナリーとは別に、東北の特産品の魅力を広める活動にも取り組んできましたが、これまではほぼボランティアで進めてきました。やりたくてもなかなか進められないことも多くて。この休眠預金を活用した有給インターンシップの事業を紹介していただき、オンラインと現地に来てもらう機会もつくれるなら、学生さんたちとなにかできるだろうと考えました。新型コロナウイルスで困っている学生さんの役にも立ちつつ、思いに共感してもらえる人と地元に貢献する仕事がしたい。そうして募集をかけたところ、私の期待以上の気持ちを持ったおふたりとチームを組むことができました。
―菅崎さんと松元さんがこのプログラムに応募した動機も教えてください。
菅崎 コンビニでアルバイトをしていたのですが、まさに新型コロナウイルスの影響で人員削減があって辞めることになりました。別の仕事を探そうかとも考えましたが、以前に若者のキャリア形成支援をしている「ワカツク」の方にインターンシップのお話を聞いたのを思い出したんです。インターンシップをしてみたいとその方にご相談したところ、この事業を教えてもらいました。いくつもプロジェクトがある中で、地元の仙台で働ける仙台秋保醸造所を選びました。自分たちで商品をPRする経験は初めてで。プログラムがスタートする前からドキドキワクワクしていました。
松元 大学院での研究生活で、外国人の方と話すと、東北に対してはまだ東日本大震災のイメージが強いのだと感じます。「危ない場所」という印象が拭えていない。私自身も青森出身で、震災から10年以上経って、次のステップに進もうとしている東北を後押しするのになにかできないか。そう考えていたところ、このプログラムを見つけました。自分のやりたいことにピッタリで、お仕事として参加できる。研究で身につけた力を生かすことができ、きっとこの経験が今後の自分のためにもなると思いました。
―では、どのようにプログラムが進んでいったかを教えてください。
毛利 2022年8月下旬に始まり、おふたりには当社のワインと特産品を組み合わせた6種類のセットのパンフレット制作をお願いしました。りんご、トマト、食肉、ハチミツ、皮細工、ガラス細工と、6つの特産品は食材から工芸品までさまざまです。11月には6人の生産者さんに会い、お話を聞くことができました。ぜひ会ってもらいたいと思っていたので、実現できてよかったです。生産現場を目にできたことで、パンフレット制作にさらに気持ちを入れてくれたように感じました。
―生産現場も体感しながらパンフレット制作に取り組めたんですね。松元さん、菅崎さんは、プログラムを通してどんなことが印象に残っていますか?
松元 はじめはいろいろなパンフレットの調査からスタートして、毛利さんと菅崎さんと3人で構想を固めていきました。生産者さんのお話を直に聞けたのは貴重な機会でした。ただ、お話を聞いたからこそ、みなさんの思いをどんな言葉で伝えたらいいか、どの写真で表現したらいいか、すごく悩みましたね。私が得た刺激をパンフレットで伝えられるのか。特産品の魅力はもちろん、生産者さんの人柄や興味深い裏話も入れたい。だけど、欲張りすぎるとレイアウトがごちゃごちゃして見づらくなってしまう。削る情報を決めるのも難しかったです。
菅崎 パンフレットのデザインをしたことがなく、松元さんと同じように、掲載する情報のバランスをとるのに苦労しました。例えば、それぞれの誌面には、特産品に関する情報だけでなく、組み合わせるワインや食材を使ったレシピも載っています。ある時、レシピを考えてくれた地元のシェフについても紹介しようという話になりました。すると、なにか情報を削ったり、レイアウトを工夫したりする必要が生まれる。内容が充実するのは大賛成ですが、3人でミーティングを重ねる中で、最適なバランスを求めて何度もつくり直しました。普段何気なく読んでいるパンフレットが、いかに良くできたものか実感しています。
毛利 出来上がったパンフレットの完成度は非常に高いものです。テロワージュ東北の関係者に、インターンシップで作ったものだと見せたら驚いていましたよ。生産者さんたちも喜ぶと思います。おふたりが、固すぎない読みやすい文章にしてくれたので、小学生でも面白く読んでもらえるのではないでしょうか。今までできなかったことに手が出せて、すごく嬉しいです。
―菅崎さん、松元さんは、今回のプログラムで、どんな学びや成長が得られたと感じていますか?
菅崎 どう伝えたらいいか考えても、自分だけでは答えが見つからないことも多かったです。けれど、ミーティングで相談すると、「こうしたらどう」とアドバイスをもらえたり、自分の迷いを整理してもらえたり。おふたりと協力することで成長もできて、意見交換の大切さに気づけました。これからは「分からない」とひとりで悩んで放置することもなくなりそうです。
松元 私は、誰がどう読むのか想像する、顧客目線の考え方が大きな学びになりました。大学の研究でも、以前よりも聞き手に伝わりやすい説明ができるようになり、今回の経験が他の場所でも役立っています。また、まちなかでパンフレットを見かけた時にも、どんなデザインや構成になっている注目するようになって、アイデアを吸収する習慣がつきました。
―毛利さんにとっても、オンラインがメインのやり取りは初めてだったと聞いています。実際にプログラムを進めてみていかがでしたか?
毛利 反省点として、私だけでなく他の社員にも入ってもらい、もう少し密におふたりと打ち合わせができるとよかったかもしれません。SlackやGoogleドライブを使ったやり取りに特に不便はありませんでしたが、週1回程度は直接話せる機会を持てるといいと感じています。
今回、本当にメンバーに恵まれたと思っています。おふたりともそれぞれ東北に愛着があり、最初の面談でも「地域のために」という気持ちが窺えました。募集段階で当社の思いを明確に示し、共感してもらえた人とご一緒したい。そう決めて臨んだのが、成果にもつながったのではないでしょうか。
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