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70年培われた染色技術を未来へつなぐ。大学生と挑んだ染色の魅力を広める新商品開発。

70年培われた染色技術を未来へつなぐ。大学生と挑んだ染色の魅力を広める新商品開発。

トリイ株式会社×大学生

 

新型コロナウイルスの感染拡大は、大学生の生活に大きな影響を与えています。飲食店などサービス業を中心にアルバイトができなくなり、収入減に悩む人が少なくありません。こうした状況に対し、休眠預金を給与として活用し、大学生に企業で働く機会を提供する事業が実施されました。各社がリモートワークを基本にプログラムを設計。ただ仕事を用意するだけでなく、新規サービス開発や課題解決に学生とともに取り組みました。多様な雇用と挑戦のチャンスが生まれた本事業の事例を紹介します。

(本事業は、「休眠預金を活用した新型コロナウイルス対応緊急支援助成事業」として「新型コロナウイルスの影響により仕事を失った若者支援のためのコンソーシアム(一般財団法人 リープ共創基金+認定特定非営利活動法人 育て上げネット)が実施する「地域課題の解決を目指した中間的就労支援事業〜キャッシュフォーワーク手法による若者支援〜」を、特定非営利活動法人G-netが実行団体として実施したものです)

この記事でご紹介するのは、トリイ株式会社の事例(募集記事はこちら)。1948年に愛知県西尾市で「鳥居染料商店」として創業して以来、衣類や魚網など様々な繊維製品を染める染料を取り扱ってきた会社です。70年をこえる歴史の中で、染色に用いられる各種の助剤、あるいは環境や食品に関する薬品も扱うようになり、事業の幅を広げてきました。さらに近年は、B to Bの染料や薬剤の提案だけでなく、B to Cの染料を活用した自社商品の開発も。変化をいとわずチャレンジし続ける風土があります。そんなトリイには、実は自社の原点である染色技術をめぐりある課題がありました。今回、大学生ともに挑んだのは、この課題解決のための新商品開発です。

トリイの鳥居宏臣社長と鳥居三基人専務、この事業に参画した大学生の大野真さん(中部大学3年)、宮本和徳さん(名城大学3年)にお話を聞きました。

染色技術を次世代へとつないでいくために

―まず鳥居社長より今回の事業に参画した意図をお話いただけますか。

鳥居社長 : 当社は染料や各種の助剤を販売する卸売業を事業の主軸としてきました。お客様のニーズに合わせて最適な商品を選べる提案力を強みのひとつとしています。一方で、実際に染料を使って繊維などを染め上げる技術が、私たちの世代へと継承されていないというのが以前からの課題だったんです。売り上げに直結する卸売業に主眼をおき、斜陽産業である染色になかなか注力できずにいました。会長は長年の経験に裏付けられた高い染色技術を持っていますが、それも途絶えてしまいかねない。このままではいけないと思いつつ、マンパワーを割くこともできず、課題を先延ばしにしてきました。

こうした背景があり、この休眠預金活用事業では、学生さんたちと染色技術にフォーカスしたチャレンジがしたいと考えたんです。

 

―社長にとって長年の課題に取りかかるきっかけになったんですね。大学生のおふたりは、どんな思いでこのプロジェクトに応募したんですか?

宮本和徳さん(以下、宮本):  私は農学部に所属しており、トリイさんでなら化学に関する知識が活かせると思いました。「これまでの学生生活とは一味違う経験ができるかも」。そんな予感もあって応募させていただきました。

大野真さん(以下、大野):  コロナの影響でアルバイトが全部なくなってしまった時にこの事業を知りました。オンラインで働く経験もしてみたくて。面接で社長とお話しすると、0から1を生み出す挑戦に積極的な姿勢に強く惹かれ、このプロジェクトに参画したいと思いました。

鳥居宏臣社長 (以下、鳥居社長): おふたりとなら「面白いものが作れそうだ」と感じて。文系と理系、それぞれの強みを生かした役割分担と連携をしてもらえたらと採用させていただきました。

 

―オンラインでの勤務は、トリイさんではどのように進められたのでしょう。

鳥居社長 : 日常的にはSlackやGoogleドライブを使って連絡やデータ共有を行いました。最初に私が3月から8月までの行程を設計し、順に進めていく。3月に一度だけ本社へ来てもらい、工場見学や染色体験をしました。それ以外はフルリモートでのやり取りです。ビデオ通話での打ち合わせは週1回程度行いました。

 

鳥居三基人専務(以下、鳥居専務) : Slackのような非同期コミュニケーションが基本となる新しいツールも問題なく使いこなしてもらえるので、オンラインでもスムーズなやり取りができました。当社はこれまでにも外部人材の方とのオンラインが基本のプロジェクトを経験しており、徐々にノウハウが蓄積されていくのを実感しています。

 

▲オンラインでのミーティングの様子

 

染色の面白さを広めるキットが誕生

―今回のプロジェクトの柱である新商品開発はどのように進められたのでしょう?

鳥居社長 :  最初は私や専務も含めて染色の知識がなかったので、4人で勉強会をしました。それぞれが染色の基礎知識と歴史を調べてきて共有する。染料の種類、素材ごとに適した染料など、本当に一から勉強しました。並行して、家庭用染料の市場調査も。量販店でどんなものが売られているのか。調べてみると、染料単体での販売はあるものの、それでは染色について知っている人しか購入できないことなどに気がつきました。

そうして、「染色技術を広めるためのキットの開発」「SNSやブログでの発信」「染色体験ワークショップの企画」などのアイデアが出てきて。まずは、染色体験キットを作ろうと決めました。

 

鳥居専務 :  リサーチやキット開発の中で「世界一わかりやすい染色」というフレーズを大学生のおふたりが提案してくれました。通称「セカせん」。ブログのタイトルにも使っています。知識ゼロの人でも染色を知り、楽しめる。私たちの思いを示すキャッチフレーズになっています。

 

宮本 :  キットを作ることになって、まずはその内容を4人で検討しました。「染料は液体か粉か?」「家庭で安全に使える助剤は?」「説明書はどうする?」など、最初のキットができるまで約2ヶ月かかりました。できあがったのは、マスクを染色できるキットです。

私と大野くんは説明書の作成を担当しました。「小学生に分かりやすく伝えるにはどうすれば…」。化学の勉強もし直しながら、掲載する内容を整理しました。理系の私が専門知識担当、文系の大野くんがデザインしまとめる担当。大学での勉強も活かせたと思います。

 

大野 :  私は化学の知識はゼロなので、最初のキット開発では勉強しっぱなしでしたね。ただ、専門外だからこそ誰でも分かりやすい表現を考えるのに役立てたのかなと。例えば、「塩を3mg」といわれても正直ピンとこないので、「塩をひとつまみ」と言い換えてみるとか。ふたりの知識や感覚の違いがいい方向に作用したのではないでしょうか。

 

鳥居専務 :  おふたりに考えてもらった後、文章やデザインの手直しが必要だと思っていましたが、すごく完成度の高いものを提案してもらえました。予想を軽々と超えてくれましたね。

 

鳥居社長 :  こちらの指示に従うだけでなく、どうすればいいか考えて常に動いてくれた。お任せした方が良いものができると感じたので、心置きなく「好きにやってみて」と言えましたね。

 

▲染色体験キット 通称”セカせん”

 

大学生たちの行動でさらに磨き上げられた“爆速”自由研究キット

―6月に第1弾が発売された後の展開について聞かせてください。

鳥居社長 :  キットが完成して、これからワークショップの企画やSNSやブログでの発信を進めていこうと方向性を定めました。認知度が低い商品をどう広めていくかは、向き合わなくてはいけない課題です。おふたりにもSNSやブログでの発信をお願いしました。

 

宮本 :  染色について文章で伝えるブログは私が、キレイな写真を使ったSNSでの発信は大野くんが。ここでも得意分野に合わせて役割分担しました。

 

大野 :  イベント企画などでSNSの利用には慣れていたので、その経験が活かせました。

 

鳥居社長 :  さらに「自由研究キット」としての展開を社外からアドバイスしていただき、夏休みに向けて第2弾の開発を進めました。第1弾からの改良も模索し、おふたりの自発的な行動から得られたヒントが反映されています。

 

大野 :  実際に染色体験をしてもらおうと地元の子ども食堂で実際にやってみてもらったんです。すると「いろんな色を作りたい」という声が聞こえてきて。この意見をもとに、第1弾では単色だったキットを3色でカラフルな模様も作れるようにしました。

 

宮本 :  大野くんとも相談して、大学生から意見を集めるオンラインのアイデアソンを企画しました。私たちは、染色を体験して欲しい。でも、お客様の希望は別のところにあるのでは。実際にいろいろな声を聞くと、「自由研究はできるだけはやく終わらせたいよね」というニーズが見えてきました。そこで自由研究キットには「爆速」の2文字を。手に取りたくなる訴求になるのでは。

 

鳥居社長 :  ふたりともご自身のリソースを活用して、どんどん動いてくれました。純粋にすごいと感心しましたね。

 

▲ 実際に染色体験キットで作ったマスク

 

宮本 :  もうひとつ、メールの一斉送信システムを作らせていただきました。商品のPRをするのに一件ずつメールを送るのも面倒じゃないですか。プログラミングを勉強しながら、専務にも相談して、完成させることができました。

 

鳥居専務 :  自ら学んでくれたのでほとんど教えていませんけどね(笑)おかげで業務の効率化にもつながりましたよ。

 

―大野さん、宮本さんが主体的に動かれながら、新商品の改善とPRが進められていったのがよく分かりました。最後に、今回の事業を振り返って一言ずついただけますでしょうか。

 

宮本 :  社長から「全部任せる」と背中を押していただけたのが嬉しかったです。責任感を持って目的のために学び、工夫し、実行する。やらされる仕事ではなく自分ごととして最大限のパフォーマンスが発揮できる機会をいただけました。

 

大野 :  学校で身につけた知識が活かせて、学びがどこでどう使えるのかが実感できました。大学での勉強に今まで以上に意味を見出せる気がします。社長、専務、宮本くんとの出会いは一生の財産です。

 

鳥居専務 :  私や社長にとっては、染色について改めて学び、可能性を模索できたことが、確実に今後の業務のプラスになるでしょう。すでにお客様とのやり取りへの理解度が以前より上がっていると感じます。また、染色がとても楽しいものだと分かりました。個人的にTシャツやワイシャツを染めてみています。この感情をもっと広めていきたいです。

 

鳥居社長 :  ほぼオンラインだけのやり取りで、染色の魅力を広める新商品が作り上げられたのは当社にとって大きな実績です。染色技術を深く知る機会となったのも、お客様への提案力の向上などのプラスを生むでしょう。長年の懸案だった課題に大学生のおふたりとだからこそチャレンジできました。一歩踏み出す上では、休眠預金活用の枠組みのおかげで、ひとまず先行投資も気にする必要がなく、資金面でもありがたい事業です。これから先、おふたりに動いていただいた分の人件費も含めて、きちんと採算の立つ商品に育てていきます。