老舗和菓子屋がトヨタ自動車社員と挑む一押し商品の販路拡大。多彩なアイデアと実践で販促活動の幅が広がった。
2022年03月23日(水)
豊田市の企業が社外の多様な人材と連携して、課題解決や新規事業促進に取り組む「豊田市副業・プロボノ人材活用プログラム」。2021年末から約3~4ヶ月にわたり、10のプロジェクトが実施されました。この記事では、老舗の和菓子店「風外」を営む、株式会社風外虎餅が、トヨタ自動車の研修プログラムとして参加したメンバー3名とともに、商品の販路拡大を目指した事例をご紹介します。
■企業名:株式会社風外虎餅
■業種:和菓子の製造販売
■事業の種類:toC
■従業員数:1人+(パート13人)
■外部人材の受け入れ経験:無し
■本プロジェクトの業務内容: オリジナルプリントのお菓子の販路開拓や広報
■課題や背景: 和菓子離れが進むこの時代、オリジナルプリントのお菓子など、新しいことに挑戦してきたが、家内工業のため、営業力が弱く新規の顧客開拓が出来ておらず、このコロナ禍で直営店のお客様単価の低下により売り上げの減少が続いています。
■外部人材の受け入れ期間:2021年12月~2022年3月
■受け入れ人数:3名
■企業HP:http://www.fuugai.com/
外部の人材の力と知恵で事業を動かす
風外虎餅の創業は昭和40年。創業者である先代社長が足助町で和菓子屋を開きました。その後、名鉄豊田市駅近くにも店舗を構え、市内の生協と連携した商品販売を行うなど、地域に根ざした事業を展開してきました。一つひとつ素材にこだわり、体に優しいお菓子を作り続けています。
7年前、2代目である長橋透社長が、とある展示会で、どら焼きやお煎餅に好きな絵柄をプリントできる機械を見つけました。「この機械を導入しよう」とほぼ即決。現在、風外のWebサイトで大きく扱われている「プリどら」「プリせん」といった商品が誕生しました。オリジナリティのあるお菓子をつくるのに、焼き印よりも自由な絵柄を安価に入れることができる。データさえもらえば、小ロットでの生産に何度でも対応可能。こうした強みを活かし、地元企業のノベルティーとしての売り込みも見込んだ、新たなチャレンジを始めたのです。しかし、商品が誕生したものの、営業活動に課題を抱えていたといいます。今回のプロジェクトでは、この「プリどら」や「プリせん」の販路拡大がテーマとなりました。
長橋さん「社内で販売促進に携われるのは私ひとりです。製造もみないといけない中で、営業までしようと思っても、できることに限界がある。お客様の新規開拓のために、外部の方の知恵と力を借りられたらと考えました」
プリント菓子をさらに広める。トヨタ自動車から、K.Mさん、N.MさんY.Yさんの3名のメンバーが、このプロジェクトに加わりました。「社外でのチャレンジがしてみたい」「経営者と近い立場から事業を動かしたみたい」といった志望動機で研修の参加に手を挙げたといいます。
長橋さん、K.Mさん、N.MさんY.Yさん、さらに、以前から風外のデザインを手伝っているスタッフの方も加わり、5名のチームでプロジェクトを進めました。ミーティングは、週1回オンラインで。メンバーの3人は、別に毎週1回話す機会も持ったそうです。販路拡大のアイデアを出し合い、できることから実行していきました。
いくつもの提案が着々と形に
最初に、プロジェクト後のゴールを設定。コロナ禍による減収も起きており、まずはその分を取り返すために月1万個、年間12万個の販売増を目標値としました。具体的には、Webサイトのリニューアル、SNSの活動、若者向けの新しいプリント絵柄の提案、生協を通じた新規の販路開拓、ふるさと納税の返礼品へのエントリー、プリント菓子の体験イベントの企画などに取り組みます。
WebサイトのリニューアルをリードしたのはK.Mさん。改修可能な箇所がどこかをWeb制作会社に確認した上で、改善ポイントを挙げていきました。現状は、プリどらやプリも中に特化したサイトになっています。画像の差し替え、追加すべきアピールポイントの整理など、できるだけ多くの改善点を洗い出し、ひとつずつ反映していきました。
N.Mさんは、インスタグラムの運用や、新しい絵柄の考案を担当。和菓子離れしている若い世代が目を向けるきっかけづくりに取り組んでいます。写真映えする絵柄を考え、データを作り、鮮明にプリントできるか確認する。試作と改良が進んでいるそうです。
既に風外の商品を取り扱っている小売店にプリント菓子も加えてもらう。そのための交渉を担当したのはY.Yさんでした。営業用の資料を作成し、提案を重ねています。さらに、プリント菓子の販路として、企業のノベルティーへの提案を模索する中で、家族向けのイベントにもできるのではという案が出てきました。これを受けて、2月、3月にどら焼きにイラストをプリントしてみる体験会を開催。今までなかったお客様との新たな接点の可能性がみえてきました。
▲体験イベント時の様子
菓子職人と企業社員の相乗効果
取り組みが順に形になっていくのを目にして、長橋さんは喜びとともにたくさんの刺激を受けているといいます。
長橋さん「やりたいと思ってきた、でも、自分だけではどうすれば実現できるか分からず二の足を踏んでしまっていたことが、いくつも実行に移せました。それ以上に、家族向けのイベントをやってみるなど、ひとりでは思い付くこともできないアイデアも次々に出してもらっている。本当に全てのやりとりが刺激的です。私自身は菓子職人で、やはり職人的な目線だけでは辿り着けないこともあります。企業文化もまったく違うところから3人に来ていただいて、パッと分からない専門用語も飛び交っていますが、それもいい学びです。日頃、違う仕事に携わっている者同士が手を組むことで、新しいものが生まれるのだと実感しています」
本プロジェクトの参加は、新たな知恵と力を借りることだけでなく、普段とは異なる視点が交わるコミュニケーションが、長橋さん自身の学びにもつながっています。
▲メンバーが作成した販促物や、イベントチラシ
4ヶ月間の成果を、さらなる変化の土台に
風外虎餅でのプロジェクトは、参画した3人にとってどんな機会になったのでしょう。それぞれの声を聞いてみました。
N.Mさん「普段とは違う環境で、意思疎通したつもりでも認識がズレていることがありました。加えて、オンラインでのやり取りの難しさや、SNSを使った認知度向上が簡単ではないと改めて感じ、相手の発言への丁寧な理解、自分の意図を伝えるための工夫の大切さを実感しました」
K.Mさん「お互いに即断即決が可能な環境では、スピードが上がるメリットがあると同時に、一人ひとりの判断が事業の動向に直結するため責任が大きくなると思います。経営者の動きを間近にみて、その凄さも大変さも体感し、たくさん刺激をいただきました」
Y.Yさん「自分と他者、トヨタ自動車と他社、各々の当たり前が違うことに気づく場面が多々あります。認知度を高めるためのブランディングや交渉も初めての経験です。自分でなにをすべきか考えて、実行するのを楽しませてもらいました」
経営者とともにプロジェクトを進める中で、人材側にもそれぞれに気づきがありました。K.Mさんの感じた事業のスピード感は、長橋さんがメンバーを受け入れる上で意識したことでもあるといいます。
長橋さん「限られた期間で成果を出すために、できるだけ判断は早くしようと考えていました。提案をもらったら、すぐに返事をする。その際に遠慮してしまっては目的からズレてしまうかもしれない。率直な意見を返して、やりとりを進めるのが大事だと思います。メンバーのみなさんが考え、実行してくださった成果を土台に、社内で継続的に動かせる体制づくりが次の課題ですね」
「販路拡大」という目的を共有して、チームとして策を練り、個々人が担当する部分で力を発揮した4ヶ月。このメンバーとだからこそできたチャレンジが、今後の販路拡大の礎として引き継がれていきます。
※本記事はNPO法人G-netが、豊田市産業労働課「副業・兼業等人材と市内中小企業とのマッチング支援業務」の委託を受けて作成しています。また、本事業は豊田商工会議所、豊田信用金庫との包括連携協定事業として実施しています。
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