東京の商社から奄美大島への越境研修参加者が葛藤しながら得た新たな視座 「地域創生って、そんなに単純じゃなかった」
「新しい事業を始めたいが社内に挑戦の風土がない」「イノベーション人材を育てたい」―そんな課題に注目されているのが「越境研修」です。
JALグループの商社機能を担う株式会社JALUXは、奄美大島で3泊4日の越境研修を実施。現地コーディネートは一般社団法人E’more秋名、運営はNPO法人G-netが担当しました。
1. 今回実施した、奄美大島での越境研修の概要
◯越境研修・越境学習とは
所属組織の枠を越えて他の環境を行き来し、視野を広げながら内省や学びを深めることです。
NPO法人G-netは2017年から実践型越境研修「シェアプロ」を運営し、現在は全国11地域で展開。
地域企業の事業推進や経営革新に大手企業社員らがチームで取り組み、人材育成と地域課題解決を両立しています。
◯株式会社JALUX(ジャルックス)について
JALグループの商社JALUXは、「航空・空港」「ライフサービス」「リテール」「フーズ・ビバレッジ」の4領域で事業を展開。
今回の研修には、リテール事業本部・地域創生推進部の5名が参加しました。
同部は全国の特産品を産地直送ギフトとして提供し、2020年から「JALふるさと納税」も運営。
◯今回の研修のねらい
「地域創生推進部」として、真に地域課題解決に資するソリューション開発を目指すにあたり、
地域現場の実態や課題とその課題に挑む実践者の姿勢やリーダーシップ、イノベーションマインドに出会い、
個人そして会社(チーム)として目指すビジョンに対する解像度を高め、具体的なアクションや動き方を考える
◯研修の概要
・事前研修(オンライン)
地域の紹介、マインドセット、目的の設定等
・フィールドワーク実践
7月下旬に3泊4日のフィールドワークを奄美大島にて実施。
*プログラム:フィールドワーク「集落歩き」「稲作体験」「森林散策」「シーカヤック」、
越境先ゲストトークセッション、ワークショップ(個人ワーク、グループワーク)、地域の方達との懇親会等
・事後研修(オンライン)
振り返り、内省、気づき学びの共有、アクション目標設定等
・社内報告会
学びの共有
2. 参加者の声
研修参加者(地域創生推進部の20代、入社2〜7年目の社員)
- ソリューション営業課 加藤由紗さん
- ソリューション営業課 金澤章太郎さん
- 食品企画営業課 濱崎葵さん
- ふるさと納税課 山口深咲さん
- ふるさと納税課 井上彩果さん
(1)研修前に考えていたこと
金澤:研修参加が決まったとき、仲のいい先輩や同期、後輩から「奄美に遊びに行くらしいですね」と言われました。正直なところ、私自身も強く否定できず、「行く意味があるのかな」と思ったこともありました。
しかし、事前研修を受講する中で、本土から奄美に移住して事業に取り組んでいる方が講師をされると伺い、東京に住んでいる私からすると、なぜわざわざ移住して、それもなぜ奄美大島で、そこまでモチベーション高く心を燃やして取り組み続けているのだろうと、素朴な疑問が浮かんだのです。それに対して腑に落ちる回答を見つけることを個人的なテーマとしました。
(2)現地で体感したこと
<1日目 集落歩き>
山口:印象的だったのは、フィールドワーク「集落歩き」で見た空き家でした。
研修生の間では、リノベーションをして古民家カフェにすればいいのではないか、取り壊せばいいのではないかなどの意見が出ました。
ただ、話を聞いて金銭面や登記の問題、また多くの観光客が訪れることによる日常の変化が起きてしまうことを危惧されていました。
私たちは商社としての利益を生み出すという使命がある中、どうすれば島の方々の想いを形にした上でビジネスに繋げることができるのか結論が出ませんでした。
井上:夕方に、集落にある商店の一つに行ったのですが、その商店の品揃えは、私たちがいつも利用しているコンビニとはまったく違い、普段の生活とのギャップを感じました。その点で秋名地区では、そこで商いが営まれていること自体に価値があり、そこで何が売られているかはさほど重要ではないのだと感じました。
私の担当するふるさと納税事業では最近、自治体の方と一緒に返礼品の開発を行う機会も増えてきています。そうしたときに、こちらの価値観を押し付けるのではなく、その土地らしさを大事にして介在していきたいと思いました。
<2日目 伝統の稲作・農作業実習>
加藤:稲作体験といえば「収獲作業」をイメージして意気込んでいたのですが、我々が体験した「あぜ作り」は土壌の基本を作る非常に重要な作業でした。当日は台風の影響で雨に見舞われ、水分を含んだ土はとても重たく、若手である我々でも腰が痛くなるほどの重労働でしたが、普段は代表の小池さんはじめ、数人のメンバーで本業の傍らこの活動を行っていると伺い、皆様の熱い情熱に感銘を受けました。
写真に写るきれいな田んぼの風景とは別に、実際は手のつけられていない耕作放棄地もたくさんあり、教科書やネットに掲載されている視覚情報だけでなく、実際に五感を通じて現地の理解を深める体験は「地域創生」を考えるために必要な経験だと改めて感じました。
<3日目 世界自然遺産のマングローブの森>
濱崎:観光客としてマングローブの森を訪れていたら、壮大な景色できれいだなと思って終わったと思います。でも参加前に白畑さん(注釈:マングローブの森を案内してくださったアマニコ(株式会社結人)の白畑さん)とお話しして、何世代先にもこの景色を届けるために守り抜いていきたいという強い思いがあることを知りました。
金澤:奄美大島で出会った皆さんは、「本物」を守りたい、この景色を伝承していきたいなど、いずれもシンプルだけれどわかりやすく、「なぜ奄美大島に移住して、モチベーション高く心を燃やして活動しているのか」という個人的なテーマに対する答えとしても腑に落ちました。
東京ではなかなか味わえない、「本物」に触れることで、心燃やすほどのモチベーションを得られることを、とても尊いことだと感じました。
(3)「地域」、「地域創生」について考えること
山口:研修前は、ただ人流を増やして経済効果をもたらせばいいと単純に考えていました。しかし、やはりその地域に住む方々の想いや願いを形にしてこそ本当の意味での地域創生なのかなと感じています。
ただ、E’more秋名の村上さんに「簡単なものからでも地域創生と言う」とおっしゃっていただき、私もできることから地域創生をやっていきたいなと思いました。
井上:地域との距離感が、私はちょっと遠ざかったなと感じました。
もっと地域に踏み込み、どういう形にすればよいのかと、立ち止まってしまったというのが正直な感想です。
ふるさと納税の事業で、旅という返礼品を開発すると、そこに行く人流が促進できますが、ただ送客すれば地域が活性化するわけではありません。受け入れる側の環境が整っていなければ迷惑になってしまうので、それを常に考えておく必要があります。
地域の現状はこちらにいるだけではわからないことも多いと思うので、どう情報を収集するかも考えながら業務に向き合っていきたいです。
(4)ネクストアクション
加藤:そこに住んでいる方々が困っていること、思っていることは、やはり現地に行かないとわからないと思いました。
金澤:今回のような、自分たちの枠から外れるような研修を継続して、それを体感した人が会社の中で増えていけば、それが組織の文化になっていくと思います。
私たちはまず研修で感じたことを素直に伝える役割を担うべきだと思います。
会社みんなで考え共創しながら、歩みを止めずに取り組み続けていければと思います。
井上:ふるさと納税事業で自治体と関わっているコネクションをうまく使いながら全社的に何ができるか、今回以外にも発信の機会をいただいて、いろいろな方々の意見を取り入れながら考えられたらと思います。
3. まとめ 葛藤は大きな学びの証
報告会の最後には、経営管理本部長・森田さんから5人へエールが送られました。
森田:明日明後日のうちに、新しい事業を生んでくれと期待しているわけではありません。ただ、今回行ったという事実を忘れないでほしい。そして、二つほど意識してほしいことがあります。
一つは、常に新しいこと、新しい価値をつくることに対してアンテナを張ってほしい。そのうちにもしかしたらビビッときて、どうしてもやりたい案件ができるかもしれない。そのときは必ずチャレンジしてください。
もう一つは、そういうチャレンジをする人を見かけたら、皆さんはサポートをしてあげてください。今回参加したのは5名ですが、過去にイノベーションに関わるプロジェクトに参画した人などを加えると数十人になります。これが社員500名のうち100名になると、何かやりたいと思ったときに、周りの5人に一人はサポートしてくれるかもしれない人になる。この状態になれば、加速度的に新しいことが生まれるのではないかと期待しています。
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