「おためしCXO」がつなぐ承継人材~ 副業から始める事業承継 ~
「副業で地域企業に関わる」その一歩が、事業承継の景色を変えるかもしれない。
山眞産業(株)花びら舎常務取締役としてDX推進や財務改善を担う上田泰平さんが、「おためしCXO」について語る。
「おためしCXO」が目指す緩やかなつながりは、企業と人材の双方にどんな気づきや変化を生むのか。実践者のリアルと、運営側の視点を掘り下げる。
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Profile
上田泰平(うえだ・たいへい)
2013年、大学卒業後、NTT西日本に入社、営業部門で関西私鉄グループを担当。その後デジタル改革推進部にて、NTTグループ各社のDX施策を推進。2024年より山眞産業へ転職。前職で培ったノウハウを活用した社内ITインフラの構築・DX推進と地道な財務体質改善により、着実に業績を改善。今後は農業分野への参入で既存サプライチェーンの再構築し、中長期的な事業継続と産地育成を目指している。
南田修司(みなみだ・しゅうじ)
特定非営利活動法人 G-net 代表理事。2009 年に新卒で G-net に入所し、副代表、共同代表を経て17 年より現職。「ふるさと兼業」「ホンキ系インターンシップ」など地域と人をつなぐ多様な事業を展開。18 年に副業兼業プラットフォーム「ふるさと兼業」を立ち上げ、同年に大手企業向け越境プログラムをリリース。近年は、26年4月に開学するCo-Innovation Universityの立ちあげなど、多様な仕組みづくりを推進している。共著に『長期実践型インターンシップ入門』など。
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おためしCXOとは
南田 中小企業の高齢化・後継者不足が加速する中で、後継者の育成や円滑な事業承継は必要不可欠な課題として政府も支援を行っています。G-netでは親族外承継や事業の切り出しによるCXO採用を通じた事業承継の在り方を模索しようと「おためしCXO」を進めてます。
いきなり承継、M&Aをしても、会社が大切にしたい組織風土や経営戦略まで受け継がれるとは限りません。その難しさを感じるからこそ、廃業してしまおうとする企業も多いです。そのため、お互いの大切にしたい価値観をプロジェクトベースで協働する中で探り・すり合わせながら、徐々に事業の中核を担っていくという「おためしCXO」を立ち上げました。
3か月という期間で兼業プロジェクトを行いながら、外部人材に事業の中核に入ってもらい、承継というキャリアモデルを探っていくものです。
山眞産業(株)花びら舎
上田 山眞産業(株)花びら舎は、1955年に寒天の卸売業として創業し、現在は桜葉や桜花を中心とした加工食材の製造・販売を行っています。「見る桜から食べる桜へ」という想いのもと、桜素材の可能性を追求し、和菓子だけでなく洋菓子や飲料など幅広い分野で活用いただいています。地域の生産者の皆さまと連携しながら、四季の素材を活かした商品づくりを通じて、日本の季節文化を食の形で届けることを大切にしています。
・山眞産業(株)花びら舎の紹介はこちら
・上田さんの取り組んだおためしCXOのプロジェクト内容はこちら
前職の経験を活かしてDX推進に取り組む
南田 私たちは現在「おためしCXO」を運営していますが、上田さんはずいぶん長期にわたって利用してくださいました。
上田 かれこれ5年くらいでしたね。
南田 その間、どのように山眞産業との関わりを深めていったのでしょうか。
上田 兼業ですので、どうしても業務に割ける時間は限られてしまいます。
私の場合は週末に社長の平出眞氏とともに仕事をすることが多かったのですが、最初の1年ほどはその限られた時間の中で自分のバリューをいかに示すかを考え、行動していました。
南田 具体的にどのような業務を担われたのでしょうか。
上田 NTT西日本でグループ各社のDX推進に携わってきた経験を活かして、社内ITインフラの構築やDX推進に取り組みました。
基幹システムがかなり老朽化していたので、ごっそり入れ替えたり、セキュリティの強化をしたり……
そうそう私の趣味で会社支給のスマートフォンを iPhone に変更する 、なんてこともやりました(笑)。
南田 趣味ですか(笑)。
上田 会社員の感覚からすると信じがたいですが、経営に携わる立場になると自分の一存だけで変えられることがたくさんあることは驚きでした。
まあ、社長にひと言相談はしますけどね。もちろん決算書を読みこんだり、在庫状況のチェックをしたり、財務諸表分析をしたりといった経営者らしいこともちゃんとやっていましたよ。
南田 経営状況はどうだったのですか。
上田 かなり厳しかったです。特に新型コロナウイルスのパンデミック以降は危機的状況と言っても過言ではないくらいでした。しかも、そこに追い打ちをかけるように3人の社員が同じタイミングで辞めると言ってきたのには参りました。
主力部門3名退職で事業承継を決断!
南田 確か社員数は全部で30人くらいでしたよね。多くの中小企業が人手不足に悩まされているこのご時世に、一気に3人もいなくなるのはかなりの痛手だったのではないですか。
上田 開発と営業のそれぞれの部門で主力だった3人なので大打撃です。
これはもう私がフル稼働しなければ会社が回らなくなる。そう確信した瞬間、会社(NTT西日本)に退職届を出そうと決断しました。
南田 そのときが山眞産業の経営を継ごうと決意されたタイミングだったのですか。
上田 いえ、ずいぶん前から後継者になる決意は固まっていました。ただ社長が条件をまったく提示してくれなかったんです。
私は社長の息子とは大学時代からの友人で、山眞産業に関わるようになったのも、その縁からです。そこでまずは、ふるさと兼業という形で、お試し的に関わるところから始めることにしました。そうした背景や、NTT西日本で私が受けている好待遇も知っていたことから、遠慮して切り出せなかったのかもしれません。
私自身も社長に対する遠慮があって、山眞産業に飛び込むきっかけをつかめずにいました。しかし、抜き差しならない事態が迫りつつあるのに、いつまでも足踏みしているわけにはいきません。そこで自分から社長に話をもちかけ、今後の契約条件などの詳細を詰める席を設けました。
南田 どのような条件だったか、差し支えない範囲でお聞かせいただけますか。
特に給与はNTT西日本と比べてずいぶん減ったのではないかと推察します。
上田 かなり減りました。金額は差し控えますが、新入社員時代に戻ったような気持ちになったという感じでしょうか。
ただ、誤解してほしくないのは、ボランティア精神からアトツギになったわけではないということです。私は「おためしCXO」での体験を通じて、山眞産業が大きな可能性を秘めた会社だと確信していました。魅力的な商品がたくさんありますし、社員も総じてエンゲージメントが高く、まじめで熱心かつ人柄もいい人物がそろっている。この会社はきっと成長できる。そう信じたからこそ、アトツギになったのです。
実際、私の当初のプランでは5年くらいかけて改善を続けていけば黒字転換できると見込んでいました。
しかし現実には2年で黒字化した。値上げに理解を示してくれた取引先の協力などがなければ達成できなかったことではありますが、それも含めて山眞産業の底力の一端を見せてもらったように感じています。おかげで私の給与も少しですが上げることができました(笑)。
南田 それはよかったですね(笑)。私も9年前に親族外承継によってG-net の代表になったのですが、上田さんのお話をうかがっていて当時の心境が蘇ってきました。
実は承継する3年くらい前から先代から後を継がないか?と言われていたのですが、私はその都度、断り続けていました。
自分は岐阜出身でも、起業家でもなく、イノベーティブなチャレンジをガンガン仕掛けていくタイプではない、だからアトツギに適任ではない。そう思っていたのです。
でもある日、先輩経営者との会食中にふと気づいたんです。先代と同じような代表者にはなれなくても、いま手掛けている価値ある事業と真剣に向き合って、発展させていくことはできる、またそれをやれるきっかけをたまたま持っているのは自分しかいないのではないか。
そう思って「やります」と返答して、いまに至っています。
「おためしCXO」で尊重し合える距離感を構築
上田 私も起業家タイプとはほど遠い人間なので、いまの南田さんのお話にはすごく共感します。と同時にとても羨ましく思います。3年もの間、「アトツギにならないか?」と口説かれ続けるなんて、すごく幸せなことですよね。
私なんか、一度も社長から言われたことがありません(笑)。まあ、社長がそういう性格ではないことはよく理解していますし、強い信頼関係が結べている実感もあるので、特に気にしてはいませんが。
南田 きっとその信頼関係が、親族外承継ではいちばん重要な要素なのではないかと感じます。
上田 身内ではない分、ほどよい距離感があることで互いを尊重し合うことができるのでしょうね。
南田 最後に、今後の展望をお聞かせください。
上田 積極的に投資をしていきたいですね。実は経営に携わるようになって、借金に対する考え方が変わってきました。以前は住宅ローンを借りるだけでも胸がドキドキしたものですが、いまは借りられるだけ借りようという心境です。そうして得た資金をもとに、山眞産業をどんどん成長させていきたいです。
南田 御社のさらなるご発展を祈っています。今日はありがとうございました。
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