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ふるさとライター記事|旅をしながら はたらく【三重県尾鷲市】 | ふるさと兼業

ふるさとライター記事|旅をしながら はたらく【三重県尾鷲市】

ふるさとライター記事|旅をしながら はたらく【三重県尾鷲市】
この記事は、「旅×ふるさと兼業」プロジェクトとして公募した「ふるさとライター」が執筆した記事です。
この夏、こんな募集もあります。
【旅する助っ人】1,000人の村の小さな自慢を”食”で発信する、カフェの助っ人募集

年に数回のまとまった休暇。
せっかくだからどこかへ出かけたい、でも観光地や有名レストランを巡って名産品をお土産に買うだけの旅行は、なんとなく物足りない。
そんな思いを抱えた人におすすめしたい、休暇を活用したふるさと兼業「旅する助っ人」の事例をご紹介します。

三重県尾鷲市にある温浴施設「夢古道おわせ」では、ゴールデンウィーク限定で施設のスタッフとしてはたらく「ふるさと兼業者」とともに、世間がお祭りムードに包まれた2019年の10連休を迎えていました。

夕暮れの尾鷲駅

 

 

名古屋駅から特急で約2時間半、さらに尾鷲駅から歩いて約45分。国道からも離れた山あいに、夢古道おわせの建物は建っています。

 

 

お風呂とお食事処から成るこの施設。中に入っていくと、大盛況のランチバイキングだけでなく、お風呂屋さんも昼間からすでに多くのお客さんでにぎわっていました。

 

 

11時から14時まで、尾鷲のお母さんたちが旬の食材を使ってつくる「お母ちゃんのランチバイキング」を楽しむことができます。

 

 

ふるさと尾鷲から新しい風を吹かせる

「スポンジ持ったり、デッキブラシで磨いたり、僕らにとっては毎日のことなんだけどね。それを笑いながら楽しんでくれている様子が、受け入れる側にも良い影響を与えていると思う」

 

そう話してくださったのは、夢古道おわせの支配人を務める伊東将志さん。尾鷲で生まれ育ち、ふるさとであるこのまちから、さまざまな新しい取り組みを仕掛けている人です。

 

伊東将志さん 
株式会社熊野古道おわせ 夢古道おわせ支配人

三重県尾鷲市出身。地元高校から尾鷲商工会議所へ就職。まちづくり会社の設立に携わり、夢古道の湯の運営を行う。その後現職。地域版、大学生の長期インターン事業や地域おこし協力隊の中間支援、都市部のワカモノと地域を結ぶ事業を展開。「生まれ育った町を元気にする」が暮らしと仕事のテーマ。

 

「よく『よそ者の意見を取り入れる』とか言うけど、それとは少し違う。毎日同じことの繰り返しで、忙しいときなんかは僕らは気が滅入ることもあるけど、ふるさと兼業で来てくれている皆が楽しそうに作業している姿を見ると、『ああ、自分たちの仕事は他の誰かからすると楽しいことなんだ』って気づけて、モチベーションにつながるんだよね」

 

事務室で取材をさせていただいている最中にも、表から戻ってくるスタッフさん皆に「ありがとう」「よろしく頼むね」と丁寧に声をかける伊東さん。一緒に働く仲間とのコミュニケーションをとても大切にされている様子が伝わってきます。今回、ふるさと兼業者を募集することになった経緯を尋ねてみました。

 

「普段働いてくれているパートの方が、お休みをとらないといけなくなってしまって、ゴールデンウィークの人手不足をどう補うか考えていたところでした。元々、G-netさんを通して3ヶ月のインターン生を受け入れていたんだけど、それならいっそもっと短期で、お休み限定の兼業という新しい挑戦をしてみようと」。常に新しい取り組みをしていきたいと語ってくださった伊東さん。

 

「旅×兼業とか、帰省×兼業というはたらき方が広まっていくといいよね。旅先で汗を流してはたらくことでそこの人と仲間になったり、よく知ったふるさとにサードプレイスができたり。今回来てくれたみんなも、「次はいつですか?」と言いながら帰っていった。双方にとって良い仕組みは続いていくと思います」

 

 

帰省×兼業
実家で過ごす、だけじゃない地元との関わり方

今回まさに「帰省×兼業」を実践されていたのが、尾鷲市の隣町である紀北町出身の宮原知沙さん。宮原さんは高校進学とともに地元を離れ、現在は名古屋市内の大学で社会連携センターの職員をしています。

 

「今回は地元の皆との同窓会があって帰ってきたんですけど、各々の近況を共有するだけで終わってしまうことも多いんですよね。共通点であるはずの生まれ育ったまちの“今”についてもっといろいろ知りたい。実家に滞在して友人に会うだけじゃなくて、なにか違う形で地元とのかかわりを持てたらいいなと思って今回参加しました」

「とにかく働いていて気持ちがよかったですね。スタッフの方にはいろいろ教えてもらうばかりだったにもかかわらず、どんなことでもひとつひとつの作業が終わるたびに“ありがとう”と声をかけてくれました。それがすごく嬉しかったです。チームで働くにあたって大事なことに気付かせてもらいました。

 

それから、このお仕事はお客さんとの距離が近いんです。とにかく目の前のお客さんに少しでも気持ちよく使っていただきたくて、ゴミを拾ったり、洗面台の髪を取ったり。誰かのために動いている実感のある仕事というのが心地よかったです。普段とは違う頭の使い方というか、優先順位のつけ方をした気がします。スタッフの方と知り合うことができたので、次に夢古道に来る楽しみもできました」

 

ゴールデンウィークの夢古道おわせは、家族連れの姿が多く目立ちます。今回の参加を通して、普段の働き方、仕事について考えることができたという宮原さんは、一方でこんなお話もしてくださいました。

 

「一家三代で来てくださっているお客さんもいらっしゃいました。たぶん、高齢のおばあちゃんも一緒だとあまり遠方への旅行や、激しいレジャーには行けないんですよね。ここなら家族皆で楽しめるからって一緒に来られたんだろうなあって思うと、ああ、あったかいなあって」。すこし潤んだ目で語ってくださった宮原さんの優しい表情が、強く印象に残っています

 


ふるさとライターとして尾鷲に行ったはずが…

お二人のお話を聞いているうちに、なんだか落ち着かない気持ちになっている自分に気づきました。記事を書くために取材をして、ご飯とお風呂を楽しんで帰るのでは、なんだか物足りない。自分も汗を流してはたらいてみたい…。

 

そんなわけで、夜の部からは私自身もスタッフ側として参加することに。宮原さんに脱衣所やお風呂場の掃除、通称「スイスイ」のやり方を教えてもらい、いざシフトイン。最初は混み合う浴場で一つの場所をきれいにして帰ってくることで精一杯でしたが、少しずつ要領をつかんできました。

 

徐々に慣れてくると同時に、お客さんひとりひとりの顔を見る余裕も生まれてきます。ふと横を見ると、コーラの瓶を開けるのに栓抜きがうまく使えず苦戦している男の子の姿がありました。「開けるの難しいかな?」気づけばその子に声をかけ、瓶のふたを取ってあげる自分がいました。

 

目の前のお客さんのためだけを考えて汗を流す気持ちよさ。「ありがとう」と言って去っていく男の子を見送ったとき、数時間前に聞いた宮原さんのお話が実感を伴ってよみがえってきました。

 

 

旅×番台×はしご酒。
一緒にはたらいて、一緒にお酒を飲むことで“仲間”になる

あっという間に閉館の時間を迎え、お客さんがいなくなった後のお風呂場で締め作業が始まります。協力して目まぐるしい一日を乗り越えたメンバーたちには、高揚感と一体感が満ちていました。

閉館し、締め作業を終えた後にみんなで記念撮影。

 

最後には、伊東さんからその日のお給料を手渡しで受け取ります。そのままもらったばかりのお給料を握りしめ、伊東さんの案内で深夜の尾鷲のまちへ。

 

一日汗を流してはたらいた働いたお給料で飲むお酒はとびきりおいしい!
その日の反省会をしつつ、新鮮なおいしい海の幸に舌鼓を打ちながら、ます。その日の働きの振り返りから、今後のふるさと兼業の在り方まで、熱い会話が繰り広げられます。

 

 

そのまま二件目のスナックへはしご酒。お店のママや隣に座っていた常連さんとも話がはずみます。普通に旅行に来ただけではなかなか知ることができない、ディープな尾鷲を堪能しました。

 

ふるさと兼業には、さまざまな側面があります。旅の楽しみ方、地域とのかかわり方の一つでもあり、日常の「はたらく」を見つめなおす機会にも、人手不足を解決する一つの方法にもなり得る。今回実際に体験してみたことで、尾鷲というまちにも、夢古道おわせという施設とそこではたらく人々にも、たった一日関わっただけとは思えないくらいに愛着がわきました。

 

今後このようなはたらき方が日本各地で広まっていったら、きっとおもしろいことになるに違いない。そんな確信があります。

 

 

ふるさとライター紹介

加藤 真穂
岐阜県出身、東京都在住の会社員。
旅行よりちょっと深い地域とのかかわり方を模索中。