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伝統ある枡の新たな可能性を拓く構想を実現させた兼業人材の推進力。 | ふるさと兼業

伝統ある枡の新たな可能性を拓く構想を実現させた兼業人材の推進力。

伝統ある枡の新たな可能性を拓く構想を実現させた兼業人材の推進力。
新しい事業のスタートにはパワーが要ります。「こんな事業に着手したい!」と構想はある!けれど、そこに充てられる人が社内にはいない…。といった悩みを抱える経営者の方もいるでしょう。こうした課題を兼業人材とともに打開したのが、岐阜県大垣市の大橋量器。外部人材を巻き込んだ兼業プロジェクトを展開し、新規事業を軌道にのせた事例をご紹介します。

■受入プロジェクト

伝統工芸品をアップデート!!空間に対する想いを具現化する、1300年の歴史を活かした「枡の内装材」の【Webサイト・販促ツール制作】プロジェクト

■企業紹介

岐阜県大垣市は、伝統的に枡づくりが盛んで、現在も5社のメーカーによって全国シェアの8割を占める枡の特産地です。大橋量器も1950年から続く伝統ある枡メーカーのひとつ。

近年、量りや酒器として使う、昔ながらの用途での枡の需要は伸び悩んでいます。地域の伝統工芸品である枡を時代に合う形で残していきたい。大橋量器はそんな思いのから、枡の新しい使い方や斬新なデザインの提案に力を入れ、有名海外ブランドとコラボした枡なども世に送り出してきました。

そして、大橋量器が枡の新たな可能性として提案しているのが、兼業プロジェクトのテーマでもある、内装建材としての活用です。

 


 

|  事業構想を0から1へ。はじめの一歩を踏み出す力を貸してほしい。

 

「以前から、枡を大量発注してくださるお客様の中に、飲食店の内装として使う方がいらっしゃいました。

『これは枡を残していく道になるかもしれない。仕事にしていきたい』と考え続けていました。

けれど、畑違いの建築業界で、枡を売り出していくプロセスが全く分からなかった…。さらに、社内に余力もなくて、私ひとりでは動き出せずにいました」

大橋量器の大橋博行社長は、内装材事業スタート前の課題をこう振り返ります。従来とは別のマーケットに乗り出す。販路開拓のノウハウはない。そこに充てる人もいない。考えは膨らんでも一歩踏み出せずにいました。

そこに光明がさしたのは2018年の春。新卒で入社したひとりの社員が、社長の考えに共感し、「やってみたい!」と意欲を示しました。兼業プロジェクトの担当となる伊東大地さん。内装材事業が動き出します。とはいえ、新入社員がひとりで担当するには少し荷が重い話。伊東さん自身も「前例のない話で何から始めたらいいかも分からなかった」といいます。そこで大橋社長が目を付けたのが兼業人材の活用でした。

 

「はじめての試みなので、どんな効果が生まれるか正直想像できませんでしたね。けれど、挑戦して活路が開けるのではと期待はありました。不安やリスクを考えるよりも、まずはやってみようという強い気持ちで、導入に踏み切りました」。

 

|  熱意ある兼業人材の視点から社長が得た気づき。

 

はじめての兼業導入では、先入観なく一緒に柔軟に考えてくれる「建築業界をよく知る人以外と組みたい」と考えました。そうして兼業チーム4名が集まり、第1期となる約4ヶ月のプロジェクトが始まります。公務員3名と会計士1名。業界は違ってみも、大橋量器に興味をもち、意欲のある人ばかりでした。

 

第1期のテーマは「販路開拓と内装材としての活用の実績を作ること」。内装材を売り込めるターゲットをピックアップしながら、提案資料を作成しました。また、枡を内装材にする上で知っておくべき建築関連の制度なども調査。公務員のメンバーが建築関連の部署の同僚から情報収集したり、知り合いの建築デザイナーに意見を求めたり、ターゲットのリスト化やマーケット調査では兼業チームの人脈が助けになったといいます。

また、同時期に兼業チームの動きと並行して、岐阜市内で枡を内装材にした日本酒バー「MASU BAR 蓬莱」の開業が決定。11月のオープンに向けて、兼業チームがプレスリリースの作成にも取り組みました。

たった4ヶ月という期間の中で、モデル事例となる「MASU BAR 蓬莱」ができ、兼業チームの手で提案のための資料やノウハウの土台が築かれました。加えて、外部人材の視点によって社長や伊東さんが得た気づきがあったといいます。

 

「兼業チームの方から『どこを目指す事業なのか?』と疑問を投げかけられたことがありました。

誰にどう訴求していくプロジェクトなのか、思い描いていたビジョンはあったものの、伝えきれてはいなかった。自分たちの思いを整理するとともに、次になにをすべきかを、このやり取りでクリアにできましたね。」

 

大橋社長がこう語るように、社外の人材とのコミュニケーションが自社の事業を振り返る機会にもなります。さらに、兼業チームメンバーの疑問には、事業の将来を自分事として考える真剣さも窺えるでしょう。

 

|  事業のステップに合わせて必要とする人材とチームアップ。

 

その後兼業人材の活用可能性を模索する中で、建築に関する高い専門性を有するメンバーの活用などを通じ、事業としても順調に展開し、家具メーカー等の提携なども生まれてきました。そんな中で今回新たなステップとして、枡の内装材のブランディングとWebサイトなどの販促ツールの制作を主題とした兼業プロジェクトを立ち上げました。参画したメンバーは、公務員やWebデザイン、ブランディングを本業とするメンバー3名。プロジェクトのテーマに合致する専門知識やスキルを持つ人とチームを組み、カタチにしていったのです。ゼロベースから事業をスタートさせていく中で、その時々で必要となる人と兼業チームを組むことで、内装材事業が一歩ずつ前進していきました。

多様な人材を受け入れ、兼業チームを運営するノウハウも蓄積されてきたと伊東さんは語ります。

「兼業チームのやりとりはオンラインミーティングが基本です。

オンラインだと複数人が同時に話せないので、段取りよく進めないとグダグダになってしまいます。議題をきちんと共有して、ゴールを明確にして順序よく進めていく。全員がモヤモヤを残さずに話せるように回していく。実際にやってみないと分からない難しさがあります。けれど、上手く活用できれば、地理的な距離は関係なく様々な意見を取り入れられるので、効果的な方法ですよ。実際に、岐阜、三重、滋賀、福井、東京など各地のメンバーからアイデアをもらえました。」

大橋社長は、兼業プロジェクトを通した伊東さんの成長も大きなプラスだといいます。

 

|  兼業人材は中小企業の夢をカタチにする力

 

これまでの成果を踏まえて、兼業人材を受け入れる価値を大橋社長はこう語ります。

「企業の持っている夢を0から1に変えるのに、兼業チームが推進力になってくれました。社内では進められなかった構想が、3ヶ月、4ヶ月という限られた時間でどんどんカタチになっています。新規事業を始めたいけれどマンパワー不足で足踏みしている中小企業にとって大きな力になってくれると思いますよ。一期ごとに前進しているのがはっきりと感じられて、導入前に期待した効果を得られました。」

 

大橋量器の場合、大橋社長が兼業チームのミーティングに参加しているのもスピード感ある事業展開の要因のひとつです。

兼業人材の声を受けて、その場で「こうしよう」と決定する体制が取れているからこそ、多くのアウトプットが兼業プロジェクトから生まれています。

 


 

【ライター後記】

「約3ヶ月でこれを成し遂げる」という明確な目標、その目標に合致する人材によるチームアップが、兼業人材活用の大きなポイントになっていると感じました。事業のスタート段階では専門性よりも多様性を重視し、具体的なタスクに対しては専門性を有する人材と手を組む。兼業人材にとっても、「どう必要とされているか」が明確になっているからこそ、高いモチベーションでプロジェクトに臨めるのではないでしょうか。

 

<クレジット>

※本記事はNPO法人G-netが経済産業省「令和元年度地域中小企業人材確保支援等事業(中核人材確保スキーム:横展開事業)」の補助を受けて作成しています。